鶴丸国永というひと
(3.未来)
窓枠に腰掛け空を見上げれば、あと数日で満月であろう月が輝いている。
ここは未だ任務地の『過去』であるが、こんのすけが『現在』の審神者から新たな情報を得たという。
他にも当事者が居る、そんな前置きで告げられたのは。
【"写し"が存在するそうです。鶴丸さんの】
鶴丸はこてんと首を傾げて思い出す。
(俺の写し、ねえ)
知らなかったし、ちらと聞いたこともない。
詳しく聞いてみれば、どうやら『大局に影響を及ぼさなかった遡行軍の攻撃の余波』ではないかという。
鶴丸国永の写しだけではなく、三日月宗近の影打ち、蛍丸の復元、燭台切光忠の復元、他にも幾つか。
「こんな夜更けに考え事かい?」
す、と襖が開かれ、髭切が入ってくる。
そういえば風呂へ行っていたか。
「ん、大したことじゃないけどな。俺の写しの話さ」
「ああ、狐くんが言ってたやつ」
半端に開けられていた雨戸を全開にし、髭切も鶴丸と同じように窓枠へ腰掛ける。
「どんな気分なのかな、自分の写しが在るっていうのは」
写しである刀剣は仲間にも居るが、彼らから見た本歌の刀剣は未だ顕現していない。
鶴丸は腕を組んだ。
「突然聞かされたもんだしなあ。光栄に思えば良いんだろうが」
写しは本歌への敬意や畏怖を込めて、異なる刀匠の手により打たれたもの。
中には写ししか現存しなくなった刀もあるという。
(遠い未来に、自身の打った刀の写しが打たれたと知ったら)
己を打った五条国永も、驚いて喜んでくれるに違いない。
「どんなもんか、見てみたい気はするけどな」
刀剣男士として顕現出来るだけの、付喪神としての格が在るかは定かではないが。
「どこに在るのか分かってるのかい?」
「ああ。京の藤森神社だ」
奉納されているらしいと言えば、京都かあ、と髭切が興味深そうに呟いた。
「僕の居る場所から近いね」
(近いか…?)
北野天満宮は一条の北、藤森神社は十条よりも南、中々の距離ではなかろうか。
ふふ、と鶴丸の口から笑い声が漏れる。
「面白いよなあ。目が覚めたのは平安の頃だが、あの頃には想像もつかなかったことばっかりだ」
付喪神は物に依る。
永らえるよりも、折れる可能性の方がずっと高かったはずで。
月を見つめる鶴丸に倣うように、髭切もまた月を見上げた。
「いろいろあったけど、千年近く経ってこうしてまた君と共に在れるのは…僥倖だと思うよ」
この先、本霊の鶴丸と髭切が出逢えるかどうかは判らない。
けれど分霊の身で得た幸が、本霊へ影響を及ぼすことだってあるかもしれない。
「そうだなあ」
そのとおりだな、と彼の言葉に頷いた鶴丸は、月を眺める視線を外す。
すると髭切と目が合った。
ーーーそろそろ、月を愛でる時間は終いにしようか。
End.
(鶴丸国永の写しは2018年1月公開)
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2017.12.16
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