鶴丸国永というひと
(4.宴会)
相次いで発生した時間遡行反応が、あまり慎重さを発揮せず済むものであったこと。
難易度が高いと予想される任務に就いていた刀と審神者が、皆が皆、休み無しであったこと。
「というわけで、お二人は本日より三日間お休みです。私も明日は休みます」
久々に本丸へ戻ってきたと思ったら、唐突な審神者の決定に呆気に取られた。
まあつまりは、久々に休日なるものを堪能して良いらしい。
「おや、あんたたち久しぶりだねえ!」
審神者の執務室を鶴丸と髭切が辞したところで、次郎太刀にばったりと出会った。
「次郎じゃないか。久々に戻ってきたと思ったら、主も俺たちも休暇だとさ」
鶴丸が答えてやれば、あんたたちもかい、と彼は笑う。
「休みと分かりゃ宴会だね! 今日は歌仙と燭台切も居るし、酒の肴には困らないよ!」
そりゃ良い、と鶴丸は一二もなく頷いた。
「髭切以外に会うのは久々だぜ。他には誰が参加するんだい?」
「鶴丸の知ってる面子はみんな居るんじゃないかい? アタシが会ったのは、三日月に大典太に大倶利伽羅だよ」
「おお。膝丸も居るかい?」
流れで尋ねた鶴丸の問いに、次郎はにやりと笑って髭切を見遣る。
「居た居た。髭切、アンタ参加しなかったら弟くんが泣いちゃうよ?」
元より、髭切も参加しないという無粋な真似はしないつもりだった。
「おやおや、それは行ってあげないとね」
宴会には、確かに鶴丸の知る顔が揃っていた。
「よっ、伽羅坊! 久しぶりだな」
「…お前か」
大倶利伽羅は、自分から席を動くことなく黙々と酒と肴を口にしていた。
正面に座った鶴丸に酌をしてやると、分かり易く彼は破顔する。
「ありがとよ」
新たな肴を手に厨から出てきた燭台切光忠が、鶴丸に気づきこちらは顔を輝かせた。
「鶴さん、久しぶり! 元気そうで何よりだよ」
「おお光坊! お陰様でな」
気心の知れた伊達の刀たちと話すうちに、自然と肩の力が抜ける。
任務先でも休みに等しい日は幾度となくあったが、心配事のほとんどない本丸は違った。
時折声を掛けてくる者たちと談笑しながら、鶴丸は髭切の姿を目の端に置く。
(そういやあいつ、こういう席だと自分からは滅多に動かないよなあ)
弟刀に相槌を打ってやっている姿は、やはり楽しげだ。
(兄弟ってのは良いものなんだろうな)
刀剣男士の中に、鶴丸の兄弟刀は居ない。
刀派が近いといえば三条の者たちが当て嵌まるが、それも近いだけだ。
同じ刀工に打たれた者たちや、縁の繋がる刀工に打たれた者たち。
彼らの仲の良い様は、鶴丸には時に眩しく映る。
(膝丸が離れるわけないし、宴会の間は近づけそうにないな)
弟の話を程よく聞き流しながら、髭切は見慣れた白い姿を探した。
よくつるんでいる伊達の刀と飲んでいたと思ったら、いつの間にか違う刀が鶴丸の傍に来ている。
(今度は短刀の子か…)
確か鶴丸が教育係として就いていた短刀だ、銘は忘れたが。
絡んできた次郎の相手をしてから再度ちらりと視線をやれば、先の短刀と似た装束の脇差の姿が増えた。
さらにまた間を置いて見れば、同じ場所に白の姿はなかった。
広間を見回せば、彼は他と絡むことなく飲んでいた見慣れた打刀と太刀を巻き込んでいる。
(よく飛び回るよねえ)
当人があちらこちらと移るか、あるいは誰かが引き止めるか。
刀としての生い立ちは、付喪神の性格を形作る。
ゆえに鶴丸は間違いなく人気者であるし、一処に中々留まらない。
(こっちには来てくれそうにないなあ)
互いに同じことを思っていると、彼らが知ることはまだ無さそうだ。
End.
(お互い様というやつ)
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2017.12.23
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