彼らについて

(1.新年)




まだ、顕現してあまり時間が経っていなかった頃の話だ。
ちょうど年が明けたばかりで、雪がちらついていたことを覚えている。



*     *     *



乱藤四郎たちと話しているところへ現れた、新入りの二振り。
その内の片方を見て、鶴丸は目を丸くした。

「きみ…鬼切じゃないか!」

驚いたのは新入りのもう片方、膝丸の方だ。
「確かに、兄者は鬼切と呼ばれていたこともあるそうだが…」
呼ばれたもう一振りは、たった今自ら名乗った銘ではないというのに朗らかに笑い返した。

「やあ、国永。久しぶりだねえ」

しかもさも当たり前のように、相手の銘を口にしている。
ちょうど居合わせていた陸奥守吉行も驚いた。
「おんしゃあ、弟の名前は忘れとるんに、鶴丸のことは覚えとるんか?」
つい先程、彼は弟の名前を正しく言えていなかったばかりだ。
髭切は不思議なことかい? と首を傾げる。

「二度と逢えないと思っていたからね。忘れるわけにはいかないよ」

裏を返せば、膝丸にはいつか再会すると思っていたということだ。
同じ思いであったのだろう、鶴丸も感慨深い表情で髭切を見返す。

「ああ。再びきみに逢うことはないだろうと、俺も思ってた」

積もる話がありそうだが、ここで立ち止まっている訳にもいかない。
申し訳ないが、と山姥切国広が話へ割って入る。
「案内の途中だ。積もる話は後で良いか?」
来たばかりなのだから、それも当然だ。
鶴丸は笑ってひらりと手を振る。
「ああ、構わん。じゃあまた後でな、鬼切。それに膝丸」
「うん。また後でね」
「ああ」

彼らを見送り、では話の続きを、と鶴丸が部屋の中を振り返れば、好奇の視線がたくさん向いていた。
「鶴丸さん、さっきの二人と知り合いなんだね!」
「どこで知り合ったんだ?」
きらきらと目を輝かせる厚藤四郎と乱に、話すまで離してくれないだろうなと鶴丸は苦笑を浮かべた。
(聞いて楽しいものでもないんだがなあ)



「それで、話しちゃったのかい?」
苦笑した髭切に、鶴丸はひょいと肩を竦めた。
「掻い摘んで、な。知られて困ることでもないだろう?」
まあね、と返した髭切は杯に注がれた酒を煽る。
「しかしきみが俺を覚えているとは、良い驚きをもらったなあ」
おや、今のは聞き捨てならない。
夜空を仰いでいた琥珀色が、ついと鶴丸へ向けられた。

「どういう意味かな? 僕が一時の情で君に触れたと思うの?」

別段構えるでもなく、鶴丸は返す。
「だってきみ、修復されてすぐに移ってしまったろう? それに周りの連中のことも、大して覚えてる感じじゃあなかったし」
それは事実だが、語弊がある。
「覚える必要がないだけだよ」
けれど鶴丸は違う。
杯を置き、空いた右手を彼の頬へ滑らせる。
「弟は良いんだよ。だって『弟』だし、揃って源氏の重宝だ。同じ場に置かれる機会だって他よりはずっと多いだろう。でも、」
同じ家にいた時間は、短かった。
だからこそ、いつからか『覚える』ことを必然から外してしまった自分が、自身に焼き付けるように覚えた銘だ。

普段浮かべている朗らかな笑みを仕舞い、真っ直ぐに向けられた瞳。
誘われるように、鶴丸も指を伸ばした。
(…嬉しい)
そうだ、自分は嬉しいのだ。
「鬼切…いや、髭切」
必要なこと以外は置いていく、それは鶴丸とて同じだった。
だからこそ。

「覚えていてくれてありがとう」

鶴丸だって、一時の情で髭切に触れたわけではない。
二度と逢えないと思ったのも、間違いではない。

「また逢うことが出来て、良かった」

髭切は返事の代わりに、彼の白い額へひとつ、口づけを落とした。


End.
(花丸二期おめでとう!)
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2018.1.8
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