彼らについて

(2.お遊び)




閉じた障子の向こうから、二振り分の話し声が聴こえてくる。

「なあ、髭切」
「なんだい?」
「いい加減、止めにしないか?」
「うーん、何をかな?」
「俺が特定の連中と話してると不機嫌なの、ちゃんと判ってるんだぜ」
「おや、バレてた」
「いやいや…なぜバレてないと思った?」
「だって国永。君は注意しても変わらないでしょう?」
「……」
「黙るってことは、自覚はあるんだね?」
「それは…」
「君の号は『鶴』。あちらこちらを渡るのは、号由来のところもあるけれど」
「俺が自分で、きみの元から飛んでいったと?」
「そうは言わないよ。だって、僕たちは刀だから」
「……」
「君があちらこちらと渡ったから、知り合いが多いことも分かってるよ」
「じゃあ何が…」
「僕と同じ種類の好意を向けてくる刀と、わざわざ二人きりになるのはなぜかな?」
「…わざとでは、」
「本当に? 任務については仕方がないけれど」
「…少なくとも俺は、わざと気を惹くような真似はしていない」
「そうかな? 二人きりのとき、僕と話すのと同じくらい寄ってるよね」
「そんなこと…」
「ああ、短刀の場合は見た目で油断してるのもあるよねえ」
「はあ?」
「まあ、きみがどうあれ、そろそろ僕も我慢の限界なんだよね」
「…髭切?」
「幸い、この本丸の戦力は十分に足りている。一振りくらい引退しても大丈夫だよね」
「何を…」
「君の翼たる両足を斬り落として、僕の部屋に鎖で繋いでしまおうか」
「…っ?!」
「部屋からは出られないけど、そう不自由はしないよ」
「なっ…」
「幸い、結界を張る術にも多少は覚えがあるし。そうすれば僕以外と話すこともないよね」
「髭切、本気か…? 本気で俺を、鳥籠に閉じ込めようというのか?」
「へえ…。ねえ国永、僕が冗談を言うと思うのかい?」

その声音に、ゾッと背筋が凍った。
慌ててスパァンッ! と部屋の障子を勢い良く開く。

「兄者っ、正気か?!」
「鶴さん無事?!」

血相を変えた膝丸と燭台切に、当人たちは目を瞬いた。
「よお、光坊。結構遅かったな」
「肘丸は良い子だねえ。ここまでずっと我慢してたんだ」
髭切と鶴丸は、お互いに背を預けて座っていた。
片や読書、片や手慰みにお手玉などしている。
「…………は?」
意味が分からない。
「…えっ、さっきの会話は?」
「うん? ただの言葉遊びだよ」
「は?」
髭切がいつもの調子で宣うのに、間抜けな声しか出てこない。
飽きたのかお手玉をぽいっと放り、鶴丸は膝の上で頬杖をつく。
「いや、俺たちの任務が急遽延期されてな。突然のことで退屈が過ぎたのさ」
「えっ…ええ…?」
燭台切と膝丸が顔を見合わせた。
「つまり今の会話は、冗談だと」
クスクス、と鶴丸は笑う。
「きみたちが耳をそばだてているのに気づいてな」
つまり、自分たちは退屈しのぎに遊ばれていたと。

気づいた途端、燭台切と膝丸は膝を付き項垂れた。
「ちょっと鶴さんんん…!」
「兄者、さすがにそれは酷いぞ…」
それぞれの弟分の脱力っぷりに、悪戯が過ぎる二振りは満足げに笑っている。



「まあ、髭切のはだいたい本音みたいだが」
「えっ」


End.
(被害者:身内)
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2018.1.13
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