彼らについて
(3.目線)
左から右へ薙ぐ。
手首を返す。
斬り上げる。
袈裟斬りに落とす。
腰を低く、突く。
踏み込む。
右から左へ振る。
左脚を軸に、反転。
刃を躱す。
回転の勢いで叩き斬る。
柄を握り直し、胴から斬り離す。
(敵の数が多い…!)
太刀を振るうすべての動作で、遡行軍の骸が積み上がる。
絶えず散る血飛沫で、視界が悪い。
こちらがいつも二振りであることに気づいたか、あるいは時間稼ぎか。
二振りで相手取るには、些か数が多過ぎた。
幸運なことに、太刀を振るって戦う分には申し分ない環境ではある。
街中の路地ではないし、足元が悪い訳でもないのだが。
(髭切は何処だ?!)
敵が多くて周りが見えない。
逡巡する僅かな合間にも、刃が向かってくる。
突きで短刀を串刺しにする。
向かってきた打刀には、刺した骸を投げつける。
怯んだ隙に懐へ飛び込み、これまた串刺し。
向こうに覗いた刃へ向けて、骸を蹴り飛ばす。
背後から振り下ろされた大太刀から飛び、振り抜かれた腕に乗る。
身体を強く蹴り上げ、大太刀の頭上でくるりと回転。
そこで太刀を振るえば、首が跳ね飛ぶ。
「!」
首を刎ねた血飛沫の間に、ようやく相棒の姿を見つけた。
ーーー目が、合う。
大太刀の背後に着地し、腰を深く落として太刀を強く引き付けた。
『鶴丸国永』が、青白い燐光を発する。
大きく振り抜いた刃は幾刃もの鎌鼬と化し、周囲のすべてを両断した。
遡行軍は一瞬で灰燼となって消えてゆき、溢れた力は白い羽の形をとり散っていく。
血振りをくれ、ゆっくりと太刀を納めた。
ーーーカチン。
ひらり、ひらりと舞い落ちる羽毛。
「久しぶりに見たけど、やっぱり綺麗だねえ」
同じく納刀して、髭切はのんびりと声を掛ける。
『これ』が見られるなら、頑張って敵を一箇所に集めた甲斐があるというものだ。
鶴丸は深呼吸してから首を傾げた。
「きみも出来るだろう?」
「うーん。力を込めようとすると、途中で弾けちゃうんだよねえ」
何となく、その感覚は分かる。
「まあ、俺も三日月と組んでたときの話だしなあ」
こればかりは個々の『イメージ』によるのだろう。
「俺が出来てきみが出来ない道理もないし、その内出来るんじゃないか?」
そうだね、と返して、髭切は鶴丸の乱れた髪を整えてやった。
「さて、狐くんを探そうか」
「ああ」
歩き出した二振りの後には、まだひらひらと光が散っている。
End.
(活劇)
>>
2018.1.20
ー 閉じる ー