彼らについて
(4.残り香)
ふっ、と目が開く。
(ここは……)
散っていた思考がゆるゆると集まる。
(……ああ、任務中だったな。確か室町の)
ということは、見覚えのない天井であることは何らおかしくはない。
(こうして見ると、やはり小綺麗な処だな)
意識して呼吸を深くすると、四肢の強張りが解けた。
どうにも重い左手を持ち上げ、伸ばす。
(……?)
感触は、手首で位置を変えてもぽふぽふ、と布団を叩くだけだった。
漸(ようよ)うそちらへ首を向ければ、居るはずの相手は留守らしい。
(……それは少し、)
だが残った布団は暖かくはないが冷えてもいなかった。
僅かだけ逡巡した鶴丸は重い身体をずるずると引き摺り、隣の留守の布団へ移動する。
温もった布団よりもひやりとして、指先が冷たい。
ーーふわ、と何かが香る。
何だろうかと眠たい頭で思案し、合点がいった。
(……髭切の匂いだ)
正確に言えば、彼の纏う香の残り香。
鶴丸が唯一、己を明け渡しても良いと決めた相手だ。
(……これなら)
本人は居ないが、まあ及第点だ。
布団を引っ張り上げ、頭まで被る。
(これなら、寂しくない)
*
(……ありゃ)
居るはずの場所に居ない相手は、自分が寝ていた布団に潜り込んでいた。
髭切が宿の仲居から水差しを受け取っている間に、目が覚めてしまったのだろう。
すっかり被っている布団をそうっと捲り、顔に掛かる髪を払ってやる。
(寝惚けてる君は、素直だよねえ)
鶴丸は、本丸における自身の立ち位置を正しく理解していた。
自分たちを含めた精鋭の者たちは皆、最高戦力であるが為に刀剣たちの精神的支柱の役割を担っている。
ゆえに揺らがず、弱音を吐くなど以ての外。
例え本丸であっても、同じ立場の者と二人きりにでもならない限り、鶴丸は誰にも揺らぎを見せはしない。
寂しいと泣く心を、『退屈』にすり替えてしまった意地っ張り。
鶴丸を起こさないように、同じ布団に潜り込む。
(三日月宗近に先を越されたのは、失敗だったなあ)
自分が顕現するまでの間、鶴丸と任務で組んでいたのは三日月だ。
多かれ少なかれ、彼は弱った鶴丸を見てきているだろう。
(……まあ、これから先見せなければ良いか)
閉じられた瞼にひとつ口付けて、髭切もまた眠りについた。
End.
(さみしがりや)
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2018.1.27
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