バケモノと輪舞曲
(6.特異点観測室・帰)
「ただいま戻りましたー!」
「戻ったぜ!」
「ふぃー、戻り戻り〜」
「ただいまー!」
ドアが開いたかと思うと、一気に賑やかになった。
「お、戻ったかい。おかえり」
椅子にしゃがんだままの鶴丸がひらりと手を振ると、長曽祢虎徹が手を上げ返す。
「全員、無事戻った。久々の長丁場だったな」
「楽しめたようで何よりだ。報告は明日で良いぞ、チェック役が戻らないからな」
確かに、鶴丸の業務手伝いをしている白山の姿は見えない。
「あれ? 山姥切さんたちは?」
加州清光が部屋をぐるりと見回し、腑に落ちないという顔をした。
鶴丸はため息混じりに笑う。
「今日の2件目がオマケ付き封印壕でな。その前は疑似蠱毒ではっちゃけてくれやがって、俺が迂闊に動けん」
つまり長義と髭切、膝丸は本丸へ戻ったということだが。
「えっ、それ大丈夫なの?!」
誰がって、鶴丸が。
「なに、よくあることだしな。夕方には小烏の父上も戻るし」
鶴丸の担っている特殊性は小烏丸を除き他の誰も手助けが出来ないため、加州は渋々と引き下がる。
「あ、そういえば僕、山姥切さんと飲み会しようって約束してたんだ」
日時はまだ決めてないけど、と大和守安定がぽろりと零し、加州と堀川国広が目を見開いた。
「は?! お前、なに楽しそうなこと勝手にしてんの?!」
「それ本当ですか、大和守さん! 僕も混ぜてください!」
ね、兄弟! と堀川が話題を振るのに、突然振られた山姥切国広は狼狽えた。
「え、いや…俺は…」
「断る理由を探しているのかな?」
「うわっ?!」
目の前ににっかりが現れ、2度驚いた。
「何も遠慮する必要はないと思うけどねえ。なにせ君は、あの髭切の眼鏡に適ったんだから」
「…それは、そうだが」
国広が長義とまともに話せたのは、まだ数えるほどだ。
なにせ長曽祢の【御用改】に加わっている国広と、鶴丸の【青天の霹靂】である長義では、担う案件が違い過ぎて時間が合わない。
誰かと担当を代わってもらうことも可能だが、【御用改】の任務は性に合うので外し難い。
ああ、けれど。
「…本科と話したい、な」
ここの本科は、不甲斐ない写しを赦してくれた。
それだけで良かったはずなのに、求める心は止まらない。
「別に、切国が居てもあの人たちの機雷には触れないよね?」
「そうね。俺たちも、今更あの人たちに遠慮するもの持ってないし」
大和守と加州が勝手なことを言っている。
「でも、人数増えるととっ散らかりそうじゃない?」
大和守の目が長曽祢へ向き、長曽祢は肩を竦めた。
「うちからは大和守、加州、堀川、切国。鶴丸の方は山姥切、髭切、膝丸、白山、小烏丸でどうだ?」
無難に纏まったな、とは思うが。
「平安刀3振りの相手は辛くないか?」
しかも源氏の重宝に平氏の重宝、まだ鶴丸や小狐丸の相手の方が楽だろう。
それを大丈夫ですよ! と堀川が太鼓判を押した。
「僕がフォローしますし、白山くん、よく気がつくんですよ。それに兄弟も居ますから」
「…ああ。俺も、それくらいの礼儀は弁えている」
国広は被った布をさらに深く引くが、応えは返す。
あ、これは意外と乗り気だなと鶴丸は悟るが、口にはしなかった。
「じゃあ、日程が決まったら教えてくれ。そのときは俺たちは俺たちで飯にでも行くか」
「お、良いねえ! あんたらを連れてってみたい店があるんだ」
今度は和泉守兼定が乗り気だ。
平和で結構。
「きみたちは明日の段取りが出来てるなら、もう上がって良いぞ。暇なら引き篭もり連中に声を掛けてくれ」
「えっ。鶴さん、あなたずっとここに居たのに、まだ一度も彼らを見てないのかい?」
尋ねたにっかりに鶴丸は首を縦に振り、皆は一様に呆れた顔になる。
「えぇー、またあの人らご飯食べてないの?」
「ていうか、寝てないんじゃ」
「おいおい、しゃーねぇなあ。俺らは一旦飯食って、その後あいつら引っ張り出そうぜ」
「了解だよ、兼さん!」
うん、平和で結構。
鶴丸はわいわいとしているメンバーを見つめて、密やかに微笑う。
End.
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2019.4.4
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