喰らう神殺し

(4.あなたに罰を与えましょう)




プロジェクターの映像が消えた。
静まり返った部屋の中に、白山の抑揚のない声だけが響く。


「本歌と写しの関係性。それを知らないだけでは、こうはならない」

「山姥切国広の経歴を知らないだけでは、こうはならない」

「本作長義…以下五十八字略…の経歴を知らないだけでは、こうはならない」

「霊剣山姥切の斬った山姥を知らないだけでは、こうはならない」

「写しの打たれる意味を知らないだけでは、こうはならない」

「付喪神が妖怪であると、忘れただけではこうはならない」

「付喪神が神の末席であると、忘れただけではこうはならない」

「刀剣男士は人であると、忘れただけではこうはならない」

「刀剣男士は人とは違うと、忘れただけではこうはならない」

「戦をしている自覚がないだけでは、こうはならない」

「我々の戦力が、遡行軍に比べ圧倒的に少ないことを忘れただけでは、こうはならない」

「たった一振りでも貴重な戦力であると、忘れただけではこうはならない」


早々に実例が出てしまったことを省みて、政府は聚楽第任務が中盤に差し掛かった頃、新たに重要通知を出した。
それは『聚楽第任務達成報酬の確認時は、山姥切国広と共に必ず平安生まれの刀を同席させること』だ。
最低限の約束事を守っていたため、この場に居並ぶ審神者たちは自身の山姥切国広の消失という自体は免れている。
同席した平安刀たちが、『偽物くん』という呪(まじな)いと、2振りの関係性を迅速に把握したからだ。
迅速とはいえ審神者たちの感情に任せた言葉の方が早いので、結局呪いは壊されてしまっている。
出来たのは、国広が長義へ本体を差し出さぬよう抑えることだけ。

本霊による配慮で創られた『呪い』は、他へ影響が出ない程に弱いものだ。
だからこそ、刀剣男士の主たる審神者による否定で壊されてしまう。
弱い呪いだから悪い?
それは原因ではない、呪いが壊れていない本丸が多勢を占めるのだから。

山姥切国広も山姥切長義も、貴重な戦力だ。
顕現された場所が本丸か政府か、その違いはあれど、顕現年数が長いほど即戦力となる。
今政府内部には、政府に顕現されている山姥切長義、聚楽第任務から戻ってきた元政府勤務の山姥切長義、
そして聚楽第任務以降に政府預かりとなった山姥切国広が居る。
山姥切国広はほとんど政府内に居なかったにも関わらず、彼らの人数は彼らの本歌と同数に迫る勢いで今も増加していた。
それはなぜか。


「『審神者』なるものの役目を忘れた罪、ゆえの罰と思い知りなさい」


この場に居並ぶ審神者たち、そして実例を出してしまった審神者たち。
彼らへの罰は、彼らの本丸に属する刀たちには良い忠告であろう。
審神者の刀として、審神者の臣下としてあるべきは、命に従うだけではないのだと。

・顕現している山姥切長義の政府への返還。
・顕現している山姥切国広の政府への返還。
・顕現していない山姥切長義の政府への返還。
・顕現していない山姥切国広の政府への返還。
・刀帳95番、96番の永久剥奪(黒塗り)。
・刀帳158番、159番の永久剥奪(黒塗り)。

以上が、彼らに与えられた罰則だ。
山姥切国広に関しては極も存在するが、関係ない。
彼らは本丸の山姥切国広と山姥切長義をすべて政府へ返還し、そして二度と手に入れることは出来ない。
鍛刀でも、戦場でも、政府主催のイベントでも。
そう、これこそ自業自得。

「講義はこれにて終了です。あなた方には、これより懲罰房にて24時間を過ごしていただき、その翌朝、本丸へ戻っていただきます」







ようやく面倒な役目が終わった。
政府警察機関の者に参加者がみな連れて行かれてから、白山はほうと息を吐く。
「……早く戻りましょう」
労ってくれたこんのすけを通信機の狐とは逆の肩に乗せ、部屋を出る。
(今なら、監査に居るでしょうか)
政府に顕現されている白山吉光は、みな山姥切長義の後輩だ。
全白山の半分が本丸へ長義を見送り、さらにその内の1/3が再び彼と仕事を共にする僥倖に恵まれた。
つい先程まで講義をしていた白山も、その幸運に恵まれた個体だった。
当の長義にとって幸運かは、分からないが。
「こんのすけ。長義への土産は、何が良いでしょうか」
「そうですねえ。あなたの山姥切様はお腹いっぱいの個体ですから、嗜好品は微妙でしょうね」
「以前なら、菓子が喜ばれたのですが」
そうでしょうね、とこんのすけは考える。
「ではいっそ、花などいかがでしょう?」
「花…ですか」
白山がぱちりと瞬きをする。
そんな仕草は長義にそっくりだと、こんのすけはこっそりと笑った。
「ええ。たとえ一輪であっても、山姥切様を彩るには相応しいですよ」
何より花は、およそ1週間で新たに贈り直すことが出来る。
「なるほど…。季節も感じられますし、良いかもしれません」
では花屋へ行きましょう、とほんの僅か跳ねた声に、こんのすけもふるりと尾を振った。
End.

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2019.2.28
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