神は非礼を受けず

(1.ある政府幹部の独白)




それは審神者が、本丸へ駐在する必要があった頃の話だ。
歴史改変戦争が始まって3年、政府から見て大本命といって過言でない刀が各本丸へ実装となった。

山姥切長義、初期刀・山姥切国広の本歌。

写しの国広の本丸実装から3年、長義は政府への実装から3年が経っていた。
3年という時間は、人間には大きなものだ。
政府関係者の間で『山姥切』といえば本歌を指したが、審神者の間では山姥切とは写しを指した。
ゆえに同じ刀剣男士である長義は、写しの国広を嫌悪した。
何しろ、山姥を斬ってもいない写しが『山姥切』と認識されているのだから。
おまけに刀剣男士の国広は写しとして比べられることに卑屈になっているし、極めたら極めたで銘はどうでも良いと妙な方向へ吹っ切っていた。

丸く収まるはずもない。

長曽祢虎徹の贋作問題と違い、『山姥切』は一振りと一振りだった。
新選組という認識の枠があった長曽祢とは違う。

そして山姥切長義の実装から3ヶ月後、審神者と本丸の一斉摘発が起きた。
正確に言えば、『政府に勤めていた刀剣を疎かに扱った者の摘発』だ。
政府に勤めていた刀剣とは、言うまでもなく山姥切長義を示す。
すでに聞き及びのことだろうが、例えば。

山姥切国広を人間的恋愛感情で愛してしまった審神者だとか。
お気に入りの刀を偽物と貶されて、頭に血が上った審神者だとか。
単純に、気位の高さが鼻持ちならないと威張った審神者だとか。

摘発されたのは人間だけだ。
刀剣たちは『名』と『物語』の重要さを熟知している。
ために長義の言い分は直ぐ様理解出来た。
いつか極めれば丸く収まるだろうと、彼らは長い目で見ていたに過ぎない。

配属から3ヶ月もあれば摘発するためのデータには事欠かないし、政府の術者も馬鹿ではないから術的な逃げ道も許さない。
その後審神者が摘発された本丸は政府預りとなり、政府それ自体が審神者となる様相を見せた。
となると、政府は考えを改め始める。

審神者を本丸へ置く必要は無いのでは?

政府はいつでも人手不足だ、審神者という個人が本丸を運営してくれた方が有り難い。
が、それは本丸に暮らさずとも出来る話ではなかろうか。
あらかじめ、空の本丸に審神者の霊力と個人データを登録してしまえば。
そうすれば、審神者の霊力を込めた札を刀剣男士が使えば新たな刀の顕現に事足りる。
主の姿を見たいというのなら、ホログラムで対処出来ないか。
刀剣男士だって考える頭があるのだ、放置されていたって機器の扱いさえ教えていればすべて扱える。
何より審神者も、慣れ親しんだ現世を離れる必要がなくなる。

霊力と親和性の高い電子ですべて代用すれば。
刀の持ち主が存在することを、自身が審神者であることを忘却しなければ。
審神者と刀剣男士の余計なトラブルも減り、結果として戦争への戦略を練り直す手が生まれるのでは?

『時の政府』はそう、考えた。
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2019.1.25
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