『綺麗に咲いたのに…また枯れちゃったね』










〜黒の糸・3










ぼんやりと火を眺めていたら、また意識がなくなりそうになった。
周りの物が全てぼんやりと…形の無いものに見える。

「眠たいの?それとも貧血?」

心配そうな声が飛んできた。
シンはそちらへ目を向けて、ゆるゆると首を横に振る。

「分かんない。眠いとか、そういうのも…何も」

ここ最近、満足に寝ていない気がする。
確かにここに着くまで、ミネルバは戦闘続きだった。
けれど、睡眠時間がなくなるほど切羽詰まってはいなかった。

こんな状態なのは、自分だけだろう。

「寝たら…夢を見るから」

他の人には無くて、自分だけが持つマイナス要因。
助けを求めるわけでもないから、誰も気付かない。
こんなことは気付かれなくていい。

「…そっか」

悲しそうに微笑んだだけで、彼はそれ以上何も聞いてこなかった。
声の無い沈黙が、心地よかった。







夢を見る、とその子は言った。

キラはその目が生きる光を映していないことが気にかかった。
まるで、自分が死んでも何も変わらないんだと言うように。

「…どうやって登るんですか?ここから」

初めて話しかけられて、キラは少年を見た。
彼は夜の闇に包まれた海を見ている。

「朝になるのを待つしか無い…かな?」

言われてみれば、彼を助けた後のことは何も考えていなかった。
崖はかなりの高さで、登れるくらい低い場所はほとんどない。
どうしたものかと考えていると、少年が適当に掛けられていた上着から何かを取り出した。

「それは?」
「…救難信号を送るヤツ。そこまで迷惑かけられません」

迷惑だ、なんて思ってもいないのに。
それよりも、そのカード型のものに目を丸くした。

「君…もしかしてザフトの子?」

パキンッとそのカードを折って、彼はキラへ振り向いた。

「よく言われるけど…そんなに見えませんか?」

初めて表情を浮かべた彼は、綺麗だった。
ただ、彼を手に入れたいという衝動に駆られるほどに。