『正しいものなんて、何一つない』










〜黒の糸・5










翌日。

キラは無理だろうと思いつつ、ザフト基地の入り口が見える場所で時間を潰していた。
もちろん、ただ潰しているわけではない。
自分の容姿が見るからにコーディネイターであることを利用して、ミネルバについての情報を仕入れている。
そう突っ込んだ内容までは無理だが、ザフトの兵士たちは快く多くのことを教えてくれた。

オーブを出たミネルバが、連合の大軍に待ち伏せを受けたこと。
インド洋に面するとある半島で、連合軍が新たに基地を作ろうとしていたこと。
ガルナハンのローエングリンゲートを、地元住人の要請の元に破壊したこと。

それら全てが、たった1隻の戦艦ミネルバが出会った事件。
そして全てにおいて、ミネルバのエース級MS・インパルスガンダムの功績が占めていること。

「ラクス様もわざわざ来てくださったし、前大戦の英雄も戻って来たって話だし。
ミネルバはザフトの守り神みたいなもんだよ!」

その兵士は、ご丁寧にそう締めくくってくれた。

(守り神というより…)

地元住人たちの話からも分かる。
あの艦は、コーディネイターにもナチュラルにも『救いの女神』なのだ。
連合の非道な行いを正す、正義として。

(それに比べて…ねえ?)

AAはどうなのだろう?

キラは今更にそんなことを思ったが、基地から見覚えのある少年が出て来たのでそちらへ意識を移した。







昨日の夜にアスランから話を聞いていたシン。

どうしようかと迷ったりはした。
だがろくに礼も言っていないことに気づき、先日の青年を捜すことに決める。
伝言通り、捜す必要はなかったのが。
基地を出たところで、その青年が手を振っているのが見えた。

「すみません、お待たせして…」

そう言うと、青年はにこりと笑って首を横に振った。

「まさか。言い出したのは僕だし、時間も何も言ってなかったし」

本当に来てくれるとは思わなかった。
そんな言葉を返されるとは思わず、シンはきょとんと目を瞬く。
すると青年はふわり、と意味ありげに微笑むと言った。

「昨日はよく眠れた?」
「え…っ?」

何か明確な意図があったのか、シンにはそれを判別出来ない。
だが、言われて考えてみて、気づく。

「あ…はい。おかげさまで…」

夢を、見なかったのだ。
昨日に限って。

理由は分からない。
ただ、この目の前にいる青年が何かしら関与したのではないかと思う。
それが何故かも分からないけれど。
シンの答えに満足げな笑みを浮かべた青年が、すっと手を差し出した。

「僕はキラ。よろしくね」
「あ、俺はシンです。シン・アスカ」

シンがその手を握り返すと、キラはその手を取ったままで町の方を見やる。

「せっかく来てくれたんだから、デートしない?」
「え?は?デート?!」

思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
周りに誰もいなかったことが救いだ。
いや、そうではなくて、デート?!何で俺と?!


シンが混乱している間にも、キラはさっさと歩き出した。
その時に感じたのは、一緒にいるのが嫌じゃないこと。