『嘘も逃げることも、何事も許さない』










〜黒の糸・7










彼がザフトの軍人でなければ。
自分がアスランのように、知らぬままだったなら。

「滅ぼす…?」

そんなバカなことを、と一蹴出来ぬ重み。
ルビーのような彼の目は、火で現される感情の全てが塗り込まれていた。

それは深く。
それは強く。

オウム返しに返したキラに、シンはくすくすと笑う。

「あの女にも言ってやった。あれは結構見物だったかも」

あまりにも深い、オーブという国への怒り。
シンの言う"あの女"とやらを、キラは知っているような気がした。
彼が纏っていた儚さは消え去り、今のシンは強い怒りと憎悪のみを纏う。

だからこそ、その色に惹かれる。

「何が、そんなに気に食わないの?」

そう問いかけて、気づけば彼に手を伸ばしていた。
触れた頬は握っていた手よりも温もりがあり、けれど肌色は病的なまでに白い。
今にも壊れそうな彼の中に、一体どれだけの感情が押さえ込まれているのか。

「全部」

返って来た答えに、隠す必要はないと感じる。
そしてそう感じた自分に疑問を投げかけた。

(僕は、何を隠して来た…?)

その答えは、彼が出してくれたのだ。

「全部…だね」
「キラ?」

突然そんなことを呟いたキラに、シンは首を傾げる。
頬を撫でる手は心地よい温かさを秘めていて、けれどそのキラの表情は窺えない。
俯いた彼が口元に浮かべたのは、つい先ほどとは一線を画する皮肉な笑み。

「やっと分かったよ。僕はずっと…自分自身でさえも、隠し通して来たんだ」
「…?」
「隠して隠して、見たくないものは見えない振りをして。
そんなことばかりしてるから、結局また殺していく。…何人も何人も」

"殺す"と言ったか?彼は。

「オーブは正しいんだと、あの国が判断したものは正しいと。
2年前のアレからずっと、避難した国民もそう思ってくれると高を括ってた」

"アレ"?しかも2年前?

「でも、君は違ったね。オーブにいたんでしょう?"あの時"」
「あのとき…?」
「そう。オノゴロが自爆した、あの日」
「!!」

一目でそれと分かるほどに、シンの目に怒りが燃え上がった。

「そこで君は…地獄を見たんだね」
「っ、お前!!」

触れてくる手を振り払い、シンはキラへ掴み掛かる。
自分より高い位置にある彼の目を睨み、その彼が穏やかな笑みを浮かべていることにさらに怒りが増す。

「あんたっ…あの時のオーブ軍に…!!」

震える声で問いただして来るシンが、たまらなく愛おしいと思った。
だから隠していようと決意したことを、君に教えてあげる。


「僕はアスハの片割れ、双子の弟。ヤキン・ドゥーエのフリーダム」



その言葉が、シンをどれだけ占めたのだろうか。