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コーディネイター産業企業"GARMR&D"
ヒト遺伝子操作研究機構
ヒトクローン研究開発科
人工子宮及び体外受精研究所
L4宙域廃棄コロニー"メンデル"。
あのコロニーが廃棄されない理由は、これだけで十分に足りる。
内部調査をするには躊躇う理由も充分だ。
幾度となくブルーコスモスのテロの標的となり、閉鎖の理由は大規模なバイオハザード。
内部機能が生きているなどと誰が思うだろう?
ましてや、そこを拠点にしている人間が居るなど。
モニターに浮かぶかつての繁栄コロニーを眺め、デュランダルは思考に耽る。
気になることがあったので偵察を出そうと思っていた矢先。
今となっては、出来ない相談と化してしまった。
「さて、片翼は誰なのだろうね?」
"あの場所"を拠点として動こうとするには、1人ではおおよそ不可能だ。
つい先ほど出て行った人物へ、返答のない問いを投げてみる。
黒く長い髪、黒い服、紫紺の眼。
他に類を見ないと言えるその姿は非常に目立つ。
けれどその目立つ容姿のおかげで、彼が何者なのか分かった。
騒々しい音を立てないように、と配慮された議長室の扉が静かに開く。
「あの…お邪魔してもよろしいですか?」
忙しく執務中であったら、すぐにでも出られるようにしているのだろう。
開いた扉の向こうから控えめに顔を覗かせたのは、"ラクス・クライン"を演じるミーアだった。
構わない、と頷いたデュランダルに従い、彼女は議長室へ足を踏み入れる。
『 Hallo! Do it go well work? 』
その後に飛び込んだハロは執務机に飛び乗り、コロコロと転がって遊び始めた。
出来が良いのか悪いのか、とにかく飽きないロボットだ。
ミーアはそれを中心に目を泳がせながら、声に出したい言葉を探す。
「あの…ギル?」
「なんだい?」
そして戸惑うように口を開く。
笑みを浮かべて先を即すが、次の言葉にはさすがのデュランダルも面食らった。
「アタシ、"ラクス様"よね?」
同じ桃色の髪に同じ歌声、同じ言葉遣い。
ファッションスタイルや曲節こそ違えど、彼女を"偽物"だと疑う人間はいない。
彼女本来の性格が、"ラクス・クラインの大胆なイメージチェンジ"を可能に出来た。
現に、他の議員やハイネも気付いていない。
…気付くとすれば"本物"に程近かった者か、"本物"の居場所を知る者だ。
"本物"の居場所を知る者も、彼女に程近かった者もプラント国内にはいない。
ではなぜ、ミーアはそのようなことを尋ねるのだろうか。
訝しげなデュランダルに気付いたミーアは、手に収めたハロを見つめて話し始める。
「さっき、ロビーのところで会った人に言われたの。"大胆な格好だな"って」
相づちを打たず、黙ってその先を待つ。
彼女はハロを見せるように軽く持ち上げた。
「この子がどこかに行っちゃって、探してたの。ロビーでその人に会ったみたい。
そしたらその人、ハロに言ったのよ。"公用語で話すなんてマトモだ"って!」
まだ出会わぬ"ラクス・クライン"の影は遠い。
どうやら彼女が持っていたハロは、マトモな話し方ではなかったようだ。
それは棚に上げておくとしよう。
「ミーア。どんな人物だったんだい?」
すると彼女はパッと目を輝かせた。
「あのね!黒い髪に黒い服で、綺麗な人だったわ!」
みなまで聞かずとも分かる。
デュランダルは苦笑を漏らした。
「ああ、彼か…」
「知ってるの?!」
言うなりミーアはぐっと身を乗り出し、そんな彼女を落ち着かせるように手で制する。
「そうだな。君も一緒にアーモリー・ワンへ赴くかい?」
唐突な提案に、ミーアはきょとんと目を瞬かせた。
もちろん彼女のスケジュールも大方は把握している。
まだ"ラクス"は国内のみの活動"再開"で、雑誌の取材などもあるがそう詰め込んではいない。
黙り込んだミーアへデュランダルは説明した。
「彼は傭兵でね。3日後にアーモリー・ワンで会う予定になっている。
かなりの腕を持っているから、是非とも契約を成立させたいんだが…」
「行く!!」
彼女はまたもぐっと身を乗り出した。
その剣幕に押されたのか、ハロはずっと大人しい。
苦笑しながらデュランダルは頷いた。
「分かった。手配しておくから、サラに頼んで私の護衛になった3人に会いに行くといい。
おそらく彼らが君の護衛もやることになるだろう」
ミーアが嬉々として出て行った後。
デュランダルは提出されたアーモリー・ワンでの軍備状況を、モニターで流し見ていた。
「情報は最大の武器。取引にこれほど良いものはないだろうね」
政策は順風満帆だ。
量産型MS、ニューミレニアムシリーズ。
内外が広く関心を寄せる、最新鋭戦艦ミネルバ。
ミネルバを専用運用艦とする、4機のMSのインパルス・システム。
その全てが、ザフトの威信を賭けた『セカンド・ステージ』。
モニターに映るそれらもまた、平和を維持するための大事な礎となるだろう。