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けたたましく警戒音が鳴る。

『ヒヨッコ共が邪魔をするなーっ!!』

ビームソードを引き抜いたはいいものの、インパルスはジンの動きに圧倒され地表へ叩き落とされる。
「『シンっ!』」
第2撃を躱す暇はなかった。
しかし衝撃は来ず、シンは思わず瞑っていた目を開ける。
「MS…?」
目の前には、MSの背が。
インパルスのモニター画面に短い文章が流れた。
それはミネルバや他のMSにも流れ、新たな乱入者を彼らに示す。


『 The mercenary unit dispatched from the junk shop guild, "GARMR&D". You are supported.
(我々はジャンク屋組合より派遣された、傭兵部隊"GARMR&D"。貴殿らを援護する)』


それを読んだタリアは、驚くどころではなかった。
「"GARMR&D"ですって?!」
「ガ、"GARMR&D"っていえばあの、凄腕でパイロットを誰も知らないっていう…アレですか?!」
アーサーもギョッとして立ち上がり、モニターに映るMSを凝視した。
艦長と副艦長の動揺は、瞬く間にブリッジ全体に広がる。

訳が分からず硬直していたシンは、そのMSからの音声で我に返る。
『ほら、何ぼやっとしてるの!邪魔だからさっさとどいて!』
(なっ!!)
頭に来たシンが口に出す前にそのMSはジンを押し返し、一切無駄のない動きでそれを切り裂いた。
爆散したジンと共に映ったのは、黒い翼の…

「「『ヤキン・ドゥーエのフリーダム?!!』」」

メイリンが進める機体解析で出た、インパルスを庇ったMSのコード。
それは前大戦終盤に三隻同盟の先陣を切った"剣"、『ZGMF-X10Aフリーダム』。
色は違えどその動きは、イザークやアスランと同様の歴戦の戦士。
「ミサイルとMS、接近します!」
索敵手の声が、ブリッジへ平静をもたらす。
タリアは早口で指示を出し、アーサーもすぐさま軍人の顔に戻った。
「艦首下げ、仰角20!ナイトハルト照準!」

考えることを後回しにし、再びジンを撃とうと体勢を立て直したインパルス。
そこへ放たれた、口径の広いビーム。

『見つけたぜ!4機目!!』

割り込んだのは例の"ボギーワン"と、それに強奪された3機。
ジャベリンで切り込んできたアビスに対し、シンはソードで返す。
「こいつら、またっ?!」
レイとルナも、因縁のあるガイアとカオスに攻撃を受ける。

『今日こそ終わりね!赤いのっ!!』
「なにをっ!!」

MA変形し襲いかかったガイアを、バック転の要領で蹴り飛ばす。
ガイアの追撃を避け銃を向けた赤いザクへ、同じくMA変形したカオスが標準を合わせた。
『ルナマリア、後ろだっ!!』
レイの声に気付くも、やはり回避する暇はない。

『隙だらけだな』

撃ち抜かれる衝撃ではなく入った音声に、ルナは混乱する。
「あれは…っ?!」
ルナのザクを守るように立つMS。
カオスの放ったビームは、そのMSが展開した"光る盾"に阻まれ分散した。


ザクを破壊出来たはずが、また新手。
スティングは怒りのままに母艦へ通信を入れる。
「おいネオっ!何なんだよあれは!!」
問われたネオの方も、ブリッジの面々と共に画面を食い入るように見つめていた。

「…"白のアルテミス"、か?」

前大戦時、あのAAとエターナルを守り続けた"盾"。
機体は違うが、それ以外には考えられない。
同じように画面を見ていて何を思ったのか、スピネルが横から通信機を奪った。
話す相手は出撃した3機ではなく、格納庫。

「ストライクを出す。"CS"をスタンバイさせてくれ」

声だけではなく、彼の纏う空気は冷たい怒りだ。
「何をしに…と問うのは野暮か」
「当たり前だ」
慌てる様子もないネオに、翡翠の眼がスッと細くなる。
ネオの見る先へ動いた視線は友軍機を捉え、刻々と高度を下げる墓標の数値を見る。

「アレを落とそうとしてるようにしか、見えねえよ」

スピネルはブリッジを出て更衣室へ向かうと、手早くパイロットスーツへ着替える。
格納庫へ降りれば、整備の1人が駆けてきた。
「スタンバイ出来ましたが…レールガンの銃身が1°ほどずれています」
「…使わない方がいいか?」
「いえ、テスト代わりと言っては何ですけど、撃っても加熱等はないでしょう」
「分かった。1発だな」
意思疎通はそれだけで十分。
スピネルの戦い方は、彼らが誰よりも理解している。

"CS(カラミティストライカー)"と呼ばれるそれは、ストライクの可変装備"ストライカー"の1つ。
前大戦時に生まれたGATシリーズの核であった可変装備MSは、大戦以降大規模な改修を受けた。
現ストライカーの元となっているのは、彼のかつての仲間が乗っていたGATシリーズ。
…フェイズシフト展開で変わる色は、青緑。
肩上には2門のビーム砲、腰部には1対のレールガン、右腕には2連裝ビーム。
左腕には、アンチビームコーティングされた盾と、内蔵されたビームサーベル。
それはカラミティというMSで問題だった、近接攻防を克服する攻盾システムだ。



混戦極まる墓標の地表。
それぞれのレーダーには、新たなUnknownが現れた。
「ボギーワンよりUnknown!」
時間がない。
破砕チームが切羽詰まる中で、まったくよろしくない状況が続く。
光学映像に解析されたその機体と機体コードは、場の人間を瞬時に凍り付かせた。

「『「ストライク?!!」』」

かつて音声だけで接触したことのあるディアッカは、映る機体に目を見張る。
(アイツ…生きてたのか?!)
驚いたのはザフトの人間だけではない。

「スピネル…?本当にスピネルなのか?!」

ミネルバのブリッジで戦況を見守っていたカガリは、驚愕に声が掠れた。
その声をタリアが聞き咎めたが、しかし構っている暇はない。
ストライクの武装は、データバンクに残っている"GAT-X131カラミティ"とほぼ同じ。
射程範囲はかなりのものになるはずだ。
回避行動を命じようとするも束の間、ストライクの行動は早かった。

「うわあっ!」
「きゃっ?!」
「…っ!!」

ストライクの砲火は、友軍機であるはずのカオス、ガイア、アビスを撃った。
「どういうことだ…?!」
シンやタリアたちは困惑を隠しきれない。

『っ、スピネル!どーいうつもりだよっ!!』

アビスの運動機能が一時的に麻痺し、アウルは撃ってきた本人へ怒鳴る。
誰もの予想を裏切って、全周波の音声が彼らを縛った。


『てめぇらは、この隕石を地球に落としたいのか?』


明らかにそれは、友軍機への叱咤。
「何なんだ、アイツ?!」
シンは後ろのメテオブレイカーが起動するのを見やり、次いで遠いストライクを見上げる。
破砕を邪魔するテロリストたちも、やはり動きが止まっていた。
アウルは当たり前のことを問われてなおさら腹を立てる。
『落としたくないに決まってんだろ?!』
『これ落ちたら…落ちたらみんな死んじゃう!』
ステラもザクから距離を取り反論した。
波のない声はそれを一蹴する。


『テロリストと破砕チームを見分けられねえヤツは邪魔だ。死にたくなかったら戻れ』


抑揚のない声が、却ってスティングの背筋をゾッとさせた。
(あいつ、本気だ…!)
ここで自分たちが戻らなければ、容赦なく撃たれる。
「アウル、ステラ、戻るぞ!」
彼が本気だということが分かったのだろう。
2人とも口を噤み、黙って取って返すカオスへ従った。
破砕チームは唖然としてそれを見送る。

『悪かったな、ザフト軍。破砕作業の成功を祈る』

最後にそんな言葉を残して、ストライクも墓標へ背を向け母艦へ引き返す。
「話の分かる奴がいて助かった。おい!さっさとメテオブレイカーを起動させろ!!」
いち早く状況を把握したのは、破砕チームを指揮するイザークだ。
彼は引こうとするボギーワンの部隊を追おうとはしなかった。
タリアはしばらく考えていたが、通信士へこんな指示を出す。
「ボギーワン…いえ、ストライク宛に国際救難チャンネルで文書を送って頂戴。"協力に感謝する"、と」
たとえ敵でも、礼には礼を返すべきだろう。
そうは考えないのが、ジンを操るテロリストたち。
1機が猛然とストライクへ突き進んだ。

『"連合の蝶"!貴様に撃たれた仲間の仇、この場で取ってくれる!!』

ジンハイマニューバに装備されたサムライソード。
フェイズシフトには無効だと分かっていて斬り掛かったのか。
ストライクはそれを盾で受け、相手が怯む間もなくビーム砲で撃ち抜いた。
それは、蝶がひらりと羽ばたく間の出来事。
(なんて強さだよ、アイツ!あのジンをあんなに軽々…!)
先の大戦を生き残った者たち。
その強さを目の当たりにしたシンは、自分の未熟さを痛感する。

限界高度を知らせる警報が鳴った。

ユニウスセブンは本来の1/4にまで砕けたが、まだ大き過ぎる。
タリアは決断を下した。

「ミネルバの艦首砲で、残りの破片を砕きます」

伝達を受けたイザークはメテオブレイカーで砕ききれない苛立ちを残し、隊へ帰艦命令を下す。
「ミネルバ、貴艦の成功を祈る!」
最後のメテオブレイカーが起動するのを見届け、シンたちもミネルバへの帰艦を急ぐ。


『貴様らの好きにはさせんっ!!我が娘のこの墓標、落として焼かねば世界は変わらぬ!!』
「?!」


殿(しんがり)にいたアスランのザクへ、ジンが襲いかかった。
「こいつ、まだ!!」
シンはビームソードでジンを切り離そうと試みるが、限界高度を超えたことで重力に引かれ上手くいかない。
インパルスほど丈夫でないザクとジンは、装甲が加熱して変形し始める。

『まだ分からぬか!パトリック・ザラの取った道こそ、我らコーディネイターの希望であったものを!!』

テロリストの口から出た名は、アスランを硬直させるに十分だった。
…巨大兵器ジェネシスで、地球を撃とうとした亡き父。
その滅亡への道を肯定する者が、ここに。

「あーもう!バッカじゃないの?!」

ミネルバへ着艦許可を申請し、それが許可された直後だった。
インパルスとザクへジンが取り憑き、戻れない。
キラはありったけの悪態を突くと、カナードと共にそちらへ急行する。
「…2度はやりたくなかったがな」
カナードの言葉はそのまま、キラの心の代弁。
前大戦時に引き続き、MSで地球降下することになるとは。
キラの場合は3回目だ。

ビームの閃光が走り、ザクに取り憑いていたジンが赤く燃える地表へ落ちていった。
…障害は無くなったが、ここからミネルバへ戻ることは不可能だ。
シンはアスランの乗るザクへ近づこうとするが、フリーダムらしい機体に止められる。
『あっちは"彼"にまかせて』
見れば、ザクの前にあの"光る盾"を展開したMSがいる。
(そうか、あれなら…)
摩擦熱を少しでも減らせる。
あとは、ミネルバが破壊するユニウスセブンの破片に当たらなければ。



「タンホイザー起動、前方の障害物へ照準」


地球の重力に引かれる、4機のMS。
あとは、彼らの無事を祈るだけだ。


「タンホイザー、撃てーっ!!」



陽電子砲の威力は凄まじく、残っていた大きな破片はガラガラと砕け散った。
大気圏へ突入した破片は、大きな流れ星となり地球に落ちていく。







未曾有の大災害"Broken the World"は、こうして始まったのだ。