フレイとラクスを部屋へ戻し、格納庫での騒ぎは収まりを見せた。
ブリッジの世話になることなく静けさを取り戻したは良いが。

「ひま〜…」
「…うるさい」

再びキラは"暇"という言葉を連発。
カナードもそれを鬱陶しいと感じながらも、同じ。
戦闘も起きず、他のクルーは寝静まり、暇を持て余していた。










-月と太陽・5-










退屈を噛み締めながら、キラは思うことがあった。
『ラクス・クライン』
彼女をこのまま、ここに居させて良いのだろうか?
「ねえ、カナード」
コックピットの外から言ってみる。

「ラクスさんを逃がさない?」

たっぷり5秒は間があった。
「…本気だろうな?」
「本気だよ」
キラのいる位置からカナードは見えない。
しかしまた呆れているであろうことは、気配で分かる。
そして、協力的であることも。
キラは少し笑って続けた。
「あの人は、こんな所に居ていい人じゃないと思うんだ。
そして軍の人間なんかに利用されていい人でもない」

裏のない人だと思った。
ただ純粋に優しく、全てを平等に見渡せる。

「逃がす方法は考えてるのか?」
ハイペリオンの主電源を入れて、カナードはキラへ尋ねた。
キラは謎めいた笑みを浮かべる。
「皆が寝てる間に、僕がアヌビスで連れ出せば終わりでしょ?
もちろん、カナードが手を貸してくれるなら、の話だけど」
カナードもまた、不敵な笑みを浮かべた。
「プログラムの一時支配か?」
キラは頷く。
通常、MSを出す場合、ブリッジの管制官がカタパルトなどを全て制御する。
それをこちらで行うことが第一条件。
「そう。MS発進時のプログラムだけで十分だし。あとは内部非常事態の警報とか」
「……」
カナードは少し考えた。
ハッキングにプラスして、プログラムを支配することは簡単だ。
しかし、AAという戦艦のプログラムを、ハイペリオンというMSの解析力だけでどうにか出来るのか。
…答えは否、容量が違いすぎる。
支配出来る時間は、完全にプログラムを支配出来るまでの時間に反比例してしまう。
「…10分、だな」
ハイペリオンの解析力を確認して、カナードは言った。
「お前がラクス嬢を連れ出して、アヌビスに乗せるまで。
俺がAAのネットワークに侵入して1分であれ5分であれ、支配出来るようになるまでが10分弱」
そして付け足した。
「…お前とラクス嬢が、誰にも足止めされなければな」
キラはアヌビスを振り返り、そしてカナードへ向き直ると確認した。
「10分、だね?」
挑戦的な笑みを浮かべて。





キラは幸いにも、ラクスの部屋の位置を教えてもらっていた。
女性の部屋へノックもせずに入るのは不謹慎だが、この際仕方ない。
「ラクスさん、起きてください。ラクスさん!」
部屋へ入ってすぐ目を覚ました(?)ハロを黙らせて、キラは小声でラクスを呼んだ。
「……?」
浅い眠りだったのだろう。
ラクスはそれだけですぐに目を覚ました。
「う…ん…、キラ様…?」
キラは口元で指を立て、声を潜める。
「しっ。着替えてついて来てください」
ラクスはやはり突然のことに動じない。
キラが廊下に出るとすぐに着替え、黙って後をついて来た。

…のだが。
格納庫まであと半分ほどの距離で、交代のために起き出していたサイとミリイに見つかってしまった。
咄嗟にラクスを壁の陰に隠すが、ハロが飛び出て、ラクス自身もまた何の警戒も抱かずに顔を出してしまう。
(…この人に常識は通じないのかな)
ラクスの行動は、キラが半ば本気でそう思ってしまうほど。
「キラ、お前…何するつもりだよ」
サイは厳しい顔でキラとラクスを見比べる。
「その人を勝手に連れ出して、何するつもりだよ?」
まだ状況がつかめず、ラクスとミリイはきょとんとしている。
キラはわずかに目を細め、サイを見た。
「彼女はここにいちゃいけない。だから返しに行く。向こうへ」
…邪魔はさせない。
だが意外にも、先に口を開いたのはミリイだった。
「分かったわ。協力する」
「ミリイ?!」
「だって、サイも聞いたでしょ?この人がフレイに言った言葉」
それは、ナチュラルとコーディネイターの垣根を取り去る言葉だった。

『軍人ではないのですから、私と貴女は同じですわね』

気づいたサイも、険しい表情を収めて微笑んだ。
「…そうだな」
反対に、キラには訳が分からない。
サイは肩を竦め言った。
「ま、仕方ないよな。俺も女の子を人質にするなんて格好悪いと思ってたし」
それはヘリオポリスにいた時に、彼がよくキラに向けていた苦笑。
キラも表情を和らげた。
「ありがとう、2人とも」



5分も経たずして、キラとラクスは更衣室に辿り着いた。
キラはロッカーから宇宙服を引っ張り出す。
「これを着て」
…と言ったものの、そこでキラは気づいた。
ラクスの着ているドレス。
あのままでは宇宙服を着られない。
キラの問い掛けるような視線に気づいたラクスは、にこりと微笑むと服の肩口へ手を入れた。
「これは大丈夫ですわ」
程なくばさり、と下のドレスだけが外れた。
(…やっぱり、この人に常識は通じないのかな……)
何の恥ずかしげもなくドレスを脱いだラクスに、キラはまたもそう思った。



格納庫にはまだ他に誰もいなかった。
いや、いても困るのだが。
「早かったな」
ハイペリオンの方向から声が掛かる。
「そっちは?」
問えば笑みを含んだ声が返って来た。
「終わってるに決まってんだろ」
そこで初めてコンピューターから顔を上げたのか、下にいるミリイとサイに不審を示す。
「…そいつらは?」
「途中で出くわしたんだ。でも手伝ってくれるって」
ラクスをアヌビスへ誘導しながらキラは答える。
他のことにあまり関心を持たないカナードはそれで興味を失い、再びコンピューターへ視線を戻す。
…そこで異変に気づいた。
「ヤバい、容量オーバーだ」
「え?」
ハッチを閉め、アヌビスを起動させたキラにハイペリオンからの通信が繋がる。
『カタパルトを開いたら警報が鳴る。構わずにさっさと出ろよ』
どうやら警報装置を支配するまでの容量は残っていなかったらしい。
ガタン、と外と内を結ぶカタパルトが開いた。

ビーッビーッビーッ!!

ブリッジを介さず開いたカタパルトに、警報装置が作動した。
「あっ、フラガ大尉!マードック曹長!」
ミリイの慌てた声が急かす。
「キラッ!早く出ろ!!」
格納庫の2階の部分から、サイはアヌビスへ向かって叫んだ。
「行きますよ」
「ええ」
キラは共に乗るラクスへ声を掛け、サイの声に合わせるようにアヌビスを発進させた。



格納庫へ駆け込んだフラガは、止める間もなく発進したアヌビスに驚愕した。
「おい!何やってんだ?!!」
先ほどまで入り口近くにいたミリイは、サイと同じ2階へ避難している。
まさか"人質を逃がしたんです"と素直に答える人間はいない。
むしろ、いたらお目にかかってみたい。
「あちゃ〜。坊主のヤツ、何考えてやがんだ?」
横ではマードックが頭を掻いて困り果てている。
アヌビスが飛び立って行った中、フラガはハイペリオンがいることに気づいた。

(こっちで動かせるのはあと1分弱…か)
カナードは画面に現れては消えて行く数列を追う。
その手が交信スイッチに伸びた。
「キラ、ストライクのランチャーは使えるのか?」
『え?ランチャー?何に使うの?』
質問の意味が全く分からない、と暗に言う言葉が返ってくる。
「いいから答えろよ。使えるのか?」
『…たぶん大丈夫だと思う。ここに来てから1度チェックしたし』
そこまで聞いて切ると、カナードはまた1つプログラムを動かした。
ガコン、とカタパルトの奥からストライクに装備されるランチャーが出てくる。
そこでプツン、とAAのプログラムに繋いでいた接続が切れた。
「カナード!お前もキラも、一体何やってるんだっ?!」
幸か不幸か、向こうにとっては不幸だろう。
フラガが怒鳴り込んで来たのがその直後。
自分を睨むフラガに、カナードはにやりと口の端をつり上げた。
「惜しかったな。あと少し早ければ証拠が掴めたのに」
「証拠…?」
何の話かフラガにはさっぱりだが、その疑問はすぐに解けた。
「フラガ大尉ー!艦長から呼び出しですぜー!!」
下からマードックがフラガを呼び、彼は1つ舌打ちをしてハイペリオンから離れた。
「…今頃気づいたって遅いぜ」
そのフラガに、カナードの嘲笑は聞こえない。





AAから飛び立たったキラは、ヴェサリウスへ回線を開いた。

『ナスカ級戦艦に告げます。今すぐエンジンを停止してください。
ラクス・クラインをお返しします』

突然開いた回線と聞こえて来た声に、ヴェサリウスのクルーは自分の目と耳を疑った。
それはクルーゼとて例外ではない。
何故ならレーダーに映る機体は、あのコード不明の黒いMS。
「…まず、君が何者なのか聞きたいのだがね」
得体の知れないMSからそんな事を言われても、にわかには信じがたい。
それは分かるが、キラからすれば面倒なことこの上ない。
『あ〜…やっぱりストライクで出た方が楽だった……(ため息)』
小さな呟きだったが、キラのそれはしっかりヴェサリウスに聞こえていた。
これにはさすがのクルーゼも扱いに困らざる負えない。
「…ストライクと言ったかね?君はストライクのパイロットだったのか?」
意外と早く答えが返ってきた。
『そうですよ。異動したので別の機体に乗っているんです。…って、そうじゃないでしょう?
僕は"エンジンを停止しろ"としか言ってません。嘘だと分かったなら方法はいくらでもあるじゃないですか』
「……」
『出迎えにアスラン・ザラとイージスを出してください』
それだけ告げるとプツン、と回線は切れた。
クルーゼは後ろにいたアスランを振り返る。
「君はどう思う?彼の言うことが本当なら、彼は君の知り合いだった者だろう?」
アスランはじっとモニターを見つめていたが、クルーゼの言葉にキッパリと言った。
「何を考えているのかは分かりません。ですが、嘘を言っているとも思えません」
そしてモニターから目を離し、クルーゼを見た。

「…行きます」





AA内は大騒ぎになっていた。
「なっ、キラがあのお嬢ちゃんを連れ出した?!」
フラガはマリューの言葉と、入ってきたキラとヴェサリウスの会話に耳を疑った。
もし事実なら、軍法に関わる一大事だ。
フラガはハイペリオンに向かって声を張り上げる。
「おいっ!今の話は本当か?!!」
「はあ?何でわざわざ確認するんだよ?」
距離が離れているにも関わらず、カナードの声はよく聞こえる。
「さっさとそこをどけ。俺も出る」
「「なにぃ?!」」
驚きの箇所は違うだろうが、フラガとマードックは同時に反論した。
しかしカナードは気にしない。
「あいつらが、黙ってアヌビスを見逃すとは思えないだろ」
ガシャン、とハイペリオンが動いた。





「キラ様、1つだけお聞きしてもよろしいですか?」
ヴェサリウスとの回線を閉じたキラに、ラクスは話しかけた。
「何ですか?」
キラはラクスを見る。
ラクスは同じようにふわりと微笑みを浮かべ、言った。
「キラ様にとって、カナード様はどういう方ですの?」
答えないキラに、ラクスはなおも問う。
「格納庫でお会いしたとき、私にはあなた方がとても羨ましく思えましたの」
「…羨ましい?」
ラクスは頷いた。
「そうですわ。"絆"と一括りにしてしまうにはもったいない程の繋がりが」
「……」
それが絆なのか、キラには分からない。
カナードが自分に向けるものは"憎しみ"で、自分は"願い"。
けれどこのラクスという少女は、それが羨ましいと言う。
「…僕にとって、カナードは"居場所"です。カナードがいる場所が、僕の居場所」
"居場所"という言葉は違うかもしれない。

「彼がいるから、僕がここに居るんです」

それは、遺伝子という名の"楔"かもしれない。
"キラ"という名の命は、多くの命の犠牲の上に成り立った。
その犠牲にされた命の1つが、彼。
「……そうですの」
ラクスは遠くを見るかのような表情を浮かべた。

「カナード様も、同じことを仰っていましたわ」

「え?」
聞き返そうとしたが、ちょうどヴェサリウスからイージスが射出される。
キラはそちらに意識を戻した。

「アスラン・ザラだな?」
『そうだ』

銃を向けて問うと、肯定の返事が返ってきた。
「ハッチを開けろ」
そう告げて、キラもアヌビスのハッチを開ける。
遠目にアスランの姿を確認すると、キラはラクスへ言った。
「何か喋ってください」
「はい?」
「貴女だと確認出来ないでしょう?」
そこまで言ってようやく合点がいったのか、ラクスはアスランに向けて手を振った。
「こんばんわ、アスラン。お久しぶりですわ」
『ラクス…』
アスランの呟きが聞こえる。
それを聞いたキラはラクスを促した。
「行ってください」
ラクスはハッチの淵に立ち、そこでキラを振り返った。
「先ほどの私の言葉、是非ご本人にお聞きくださいな」
驚くキラに微笑むと足場を蹴り、ラクスはイージスへ向かった。
アスランが彼女の手を取り出迎える。

『キラ!お前も一緒に来い!!』

キラにとって予期せぬ言葉が、アスランから発せられた。
(…変わらないね、君は)
優しいのは相変わらずのようだ。
しかし笑みを浮かべ、キラは首を横に振った。
「言ったよね。僕はもう、君の知ってる"キラ・ヤマト"じゃないよって」
『なに…』
「次に会った時に僕を撃たなければ、撃たれるのは君だよ」
『!』
アスランは知らぬうちに唇を噛み締めていた。
今キラが言った言葉は、自分が以前クルーゼに言われた言葉。
心の中に、ズシリとのしかかってくるもの。
言葉を失ったアスランに代わり、ラクスが口を開いた。
『キラ様、機会があればぜひ、私の家に遊びにきてくださいね。もちろん、カナード様もご一緒に』
(カナード…?)
初めて聞く名前に、アスランはラクスを見る。
キラは苦笑した。
「それまでに平和になっていればいいですけどね」
アヌビスが、イージスから離れた。



「頭は回るようだが、まだ若いな」
シグーに乗り込んでいたクルーゼは、イージスから黒いMSが離れるのを見てにやりと笑う。
…あの機体のパイロットは、ラクス・クラインを返還した後のことを考えていない。

ヴェサリウスからシグーが射出される。



「ナスカ級から敵MS!!」
「「なっ?!」」
AAはまたも大騒ぎになった。
「総員第一戦闘配備!」
マリューは間に合わないと思いつつ指示を出す。
そのときモニター画面を左から右へ、強力なエネルギー波が横切った。
そのエネルギー波は、アヌビスへ向かおうとしていたシグーを掠る。
『!』
すんでの所で躱したクルーゼは、そのエネルギー波の元を辿る。
"ランチャーストライカー・アグニ"。
ヘリオポリスで1度、シグーの腕を融かしたストライクの遠距離砲撃用の武器だ。
しかし、機体はストライクではなかった。



シグーが出てきた時、キラは正直言ってそれを予測していなかった。
その点、やはりカナードは凄いのだろう。
「…そこまで考えてなかった」
思わず呟くと、呆れた声が返ってきた。
『どうせそうだろうと思ったんだよ』
キラには返す言葉がない。
AAを飛び立ったときにカナードがランチャーのことを聞いてきたのは、このためだったのだ。
おそらく、ハイペリオンのフォルファントリーでは届かないと踏んだのだろう。
ヘリオポリスで運悪く撃ってしまったキラには、ランチャーの威力は痛いほど分かっている。
コロニーの外壁に大穴を開けられる、その威力を。



ランチャーを持つ白いMSは、先遣隊を撃ったときに介入してきたもう片方。
腕の良さはモニターで見ただけでも明らかだったものだ。
どうしようかと思案するクルーゼに、ラクスの強い声が聞こえてきた。

『おやめください、クルーゼ隊長。
ユニウスセブン追悼団代表の私の目の前を、戦場にするおつもりですか?』

ラクスの声に、キラもカナードも、そしてアスランも驚いた。
「ラクス…」
アスランの声ににこりと微笑み、ラクスは言った。
「まいりましょう」
制止されたクルーゼもさすがに分が悪いと考え、引き返す。
キラはほっと息をついた。
「ありがとう、ラクスさん…」







ヴェサリウスに無事着いたラクスは、船の準備ができるまで個室を与えられた。
アスランもそれに付き添う。
「怪我はありませんか?」
部屋に着き、すとんと椅子に腰を下ろしたラクスに確認する。
彼女はハロを遊ばせながら笑った。
「大丈夫ですわ。キラ様も、他の方も良くしてくださいましたもの」
"キラ"の名を聞くたびに、アスランは複雑な気持ちになる。
一体、彼に何があったのか。
「あの、お聞きしたいことがあるのですが…」
「はい?」
キラのことを聞こうと、アスランは口を開く。
しかしクルーゼが入ってきたために、それは中断されてしまった。
「失礼」
クルーゼは婚約者同士のひとときを壊したことに詫びを入れ、アスランへ言った。
「君の友人は非常におもしろいことをしてくれた」
「…は?」
キラのことを言っていることは分かるが、話の筋が分からない。
クルーゼは笑う。
「わざわざあのMSのデータを送ってきたのだよ。ラクス嬢を人質にした詫びの代わりだと。
もっとも、当たり障りのないデータだけだがね」
「あいつが…?」
律儀なところは彼らしいと思う。
しかし、何を考えているのか全く分からない。
クルーゼの話によると、黒いMSは"アヌビス"、白いMSは"ハイペリオン"という名前らしい。
「しかもユーラシア連邦所属だ。あちらも複雑だな」
そしてパイロットの名は、"キラ・ヤマト"と"カナード・パルス"。
「"カナード"…」
ラクスの口から聞いた、聞き知らぬ名前だ。
クルーゼは視線をアスランからラクスに移す。
「ラクス嬢、この2人についてお聞きしてよろしいかな?」
それは、アスランが尋ねようとしていたもの。
ラクスは頷いた。
「よろしいですわ。けれど、私もあまり詳しくは存じ上げませんが」
飛び回るハロを手に乗せて、ラクスは話し始める。

「まず間違いなく言えることは、お2人ともコーディネイターだということです」

そうだろうとクルーゼは考えていた。
ナチュラルのパイロットで、あそこまで腕のいい者はAAにはいない。
他にいるとすれば、"連合国軍の宝"と呼ばれる"あの"人物ぐらいか。
「それから、お2人とも同じアメジスト色の眼をお持ちだということですわ」
「え?」
アスランは思わず聞き返していた。
キラの眼の色は、他に見たことのない紫紺色だった。
ディアッカの眼も紫に近い色だが、それともまた違う。

「もしかしたらご兄弟かもしれない、と思いましたけれど…」

そこでラクスはアスランを見る。
アスランはそれに気づき、首を横に振った。
…自分の知る限り、彼に兄弟はいない。
ラクスは少し残念そうに微笑む。
「…そうですか。どことなく、似ているようにお見受けしたのですけれど」
お2人共とても綺麗な方でしたし、とラクスは付け足す。
謎が増えていくばかりのアスランと違い、クルーゼは何かに気づいたようだった。


「ほう…兄弟かもしれない、と」


クルーゼには、彼しか知らない事柄からの心当たりがあった。
もしそれが本当なら、それはそれは面白いことになる。