コロニーの内部を進むアヌビスとバスター。
両機のレーダーにMSの反応が2つ現れた。
「あれは…!」
アヌビスがソードを抜きバスターがランチャーを構えたその一瞬に、攻防が繰り広げられた。
交錯した4機は、対峙した相手にそれぞれが目を見開く。
ディアッカが目の前に捉えた機体は、GAT-X102デュエル・アサルトシュラウド。
「イザーク?!」
それは、かつての仲間だった。
一方のフラガが対峙したのは、シグーをさらに強化したようなザフトの新型。
「貴様っ、クルーゼ!!」
新たなザフトの隊長機、ゲイツ。
アヌビスと対峙するクルーゼは、その機体に笑みを深めた。
『ほう。今度は貴様がそれのパイロットか』
両機のビームがコロニーの天井と地上を撃ち抜く。
『こんな所で貴様と戦うことになるとはな。私も嬉しいよ、ムウ』
まるで、こちらの実力を測るかのようなゲイツの動き。
フラガはさらに苛立ちを募らせた。
「今日こそっ!」
ヘリオポリス…いや、それ以前からの因縁に、決着を。
-月と太陽・38-
ストライクはデブリを蹴る勢いだけで、コロニーの裏へ回り込む。
(捕捉は、…されてねーよな)
港の外に偵察機の姿はない。
かなり近くなったコロニーを眺めて、スピネルは違和感を感じた。
「随分ときれいだな…」
外郭も外壁も、多少の損傷はあるが修理するほどではない。
…未だに重力発生装置と内部電力が稼働していること。
それはバイオハザード事件が起こった後、誰も手を入れていない証拠。
だが、同時期に起きたテロ事件の爪痕がないのは…妙だ。
「もういいか」
ちょうどコロニーの中間あたり。
レーダーに何も移らないことを確認したスピネルはアクセルを踏み込む。
反対側の港口へ近づくと、索敵モニターが大型の熱源を捕捉した。
(ナスカ級が3隻…豪勢なことで)
位置はかなり遠いが、ザフトのナスカ級戦艦がデブリに潜んでいる。
そして…
「撃ったら撃ち返すぜ」
目の前には、M1が1機。
その機体は呆然と、ストライクへビームライフルを向けていた。
アヌビスから撃たれた誘導ミサイルが、ゲイツをしつこく追尾する。
クルーゼは地表にぶつかるギリギリの高度で飛び、下からアヌビスを狙った。
1発も当たることはなかったが、アヌビスは一時的に足止めを食らう。
その間にミサイルを撃ち落としたクルーゼは再び高度を上げ、アヌビスに向き合った。
『ふん、少しは腕を上げたようじゃないか』
どこまでも見下してくるクルーゼに、ただ怒りだけが沸き上がる。
フラガはビームソードを引き抜いた。
「ふざけるな!貴様っ!」
ゲイツのシールドブレードとアヌビスのソードがかち合う。
キリキリと動かない刃に、フラガは歯を噛み締める。
…こんなことをしている場合ではないのだ。
一刻も早く、この状況をAAに伝えなければ。
『貴様に倒されることもまた、一興かと思ったのだがな。どうやらその器ではないようだ』
突然ゲイツが刃を弾き、アヌビスから飛び退いた。
その動きにアヌビスは体勢を崩され、一瞬の隙が生まれる。
ゲイツはその隙にビームライフルの照準を合わせた。
…ターゲットウィンドウに入ったのは、アヌビスのソードとシールド。
「何っ?!」
一瞬にして武器と盾を失ったアヌビス。
加えて、ブリッツに装備されていたグレイプニルと同じワイヤーハンマーが機体を襲う。
ガンッ、と響く金属の破砕音。
1発はアヌビスの右肩を、もう1発はコックピット直下の胴体を。
「くっ?!」
破砕された胴体の破片はコックピットを突き破り、内部へ散った破片はパイロットを襲う。
…ザクリ、と肋骨の当たりに何かが食い込んだ。
ハンマーの衝撃は凄まじく、アヌビスは宙に留まりきれず地上へと叩き落とされた。
アヌビスが起動を停止したのは、落下速度を殺せず地上を何百mか滑った後。
『運命は私に味方したようだ。所詮、子は親に勝てぬということかな?』
停止したアヌビスを眼下に、クルーゼは笑う。
その口から発せられた言葉の真意を知る者は、当人の他にない。
クルーゼはライフルの照準を、アヌビスのコックピットへ向けた。
『少佐!!』
他に何も映さなかったレーダーに、突然の反応。
飛び込んで来た機体は、白に青の翼。
「フリーダム?!馬鹿な!」
ライフルをそちらへ向けた瞬間に撃ち抜かれ、その機体はゲイツの横を高速ですり抜ける。
…すれ違ったコンマ以下の間に、ゲイツの手足、さらには頭部を切り落として。
外見から判断するに、ゲイツはアヌビスよりもひどい状態で地上へ落ちた。
コックピット内は警報が鳴り響き、電子機器から火花が散っている。
「チッ!」
戦闘が不可能だと判断したクルーゼは素早く非常用レバーを引き、シートベルトを外し外へ出た。
その様子をまだ動く機内モニターで見たフラガは、自身もまたハッチを開き外を窺う。
…クルーゼの機体は、アヌビスとそう離れていない箇所に落ちたらしい。
「あのやろっ、何を…!」
左の肋に受けた傷が動く度に疼くが、構ってはいられない。
銃を片手に外へ顔を出せば、乾いた音と共に銃弾が飛んで来る。
それらはコックピットの淵に当たって弾かれ、しかし相手の声だけは遮られることなく聞こえた。
「今日こそ付けるかね?決着を!」
撃ち返した銃弾は地面へめり込み、走り去る音が遠のく。
クルーゼが向かった先は、コロニーのシャフトのように横長の柱がいくつも伸びる建物。
その建物への入り口で立ち止まったクルーゼは、再びアヌビスを振り返った。
「引導を渡してやるよ。この私がな!」
第三勢力の面々は、艦の修理と補給に余念がなかった。
やれ弾数が足りない、お札を貼って祈れ、それはもう大変だ。
何しろ連合のドミニオンだけでなく、ザフトまでやって来ているらしいのだから。
「反対側にザフトがいるとなれば、再び事態は切迫します」
画面に映るマリューとカガリへ向けて、ラクスは状況を纏める。
「そして未だ、内部へ向かった者からの連絡はなく…」
しかし言葉は歯切れ悪く切れた。
「姫、そう深く考え込まない方がいい。あの少年たちは、そうそう落とされたりはしないさ」
ラクスの心中を察したのか、アンディがそんな励ましを送る。
…もちろん、分かってはいる。
分かってはいるが、それに気持ちが付いていかない。
「偵察に向かっていたアサギ機、戻ります」
クサナギの管制官がカガリにそう伝えた。
カガリはキサカへ頷き、M1の音声をエターナル、AAへ繋がるように設定を切り替える。
「アサギ!どうだったんだ?」
外からコロニーの反対側へ回っていたアサギは、クサナギの正面で機体を止めた。
『ザフトのナスカ級が3隻!向こう側のデブリの影です!』
思ったよりも事態は緊迫しているようだ。
「ちっ、ナスカ級3隻とは豪勢すぎるな…」
エターナルを追ってくるにしても、多すぎやしないか。
…ドミニオンが先手を打っていなければ、あちらが仕掛けてきたのかもしれない。
アンディのそんな舌打ちに混じって、アサギの戸惑うような声が入った。
『あ、それから…』
「どうした?」
『いえ、あの…』
言うべきか迷うような口ぶり。
数秒逡巡した後、彼女は再び口を開いた。
『…ストライクに、遭いました』
なぜ、誰も"そちら"の可能性を考えつかなかったのか。
ドミニオンも偵察を出すことに。
「なっ…あの"連合の蝶"がいたのか?!」
ザフトの軍人にとって、もっとも出会いたくないMS。
エターナルのブリッジは騒然となった。
だがアサギはそうではない、と精一杯否定しようとする。
『てっ、偵察だとは言ってましたけど!でもドミニオンなしで動くことはしないって言ったんです!
ただ…撃ってきたなら撃ち返すと』
アンディやダコスタには、なぜそこまで否定しようとするのかが分からない。
「なぜそう…あの少年を庇おうとするんだい?」
答えはM1からではなく、クサナギ、AAの双方から返ってきた。
「知ってるからだ。私たちはあいつを…スピネルを知ってるんだ」
「彼については、バルトフェルドさんも少しはご存知でしょう?」
カガリはほんの数ヶ月前のことを思い出す。
…ザフトに追われていたAA。
ストライクを操る翡翠の彼に、あれきり会ったことはない。
マリューたちもまた、思い出す。
…アラスカで別れ、そして次は敵として現れた彼。
躊躇いなくこちらを撃ってきた彼は、しかし軍人なのだ。
自分たちと同じように。
銃を向けてくるM1に、スピネルは静かに忠告した。
「撃ったら撃ち返すぜ。死にたくなかったら撃つな」
『… … !』
M1側から何か音声が入った。
その声に聞き覚えがあるような気がして、思い出す。
「M1の試験パイロット?」
確か女が3人、他のパイロットは全部男だったはずだ。
さすがにその3人のうちの誰か、までは全く分からないが。
『中へ入って、どうする気ですか…っ?!』
相手の声は震えていた。
…撃たれることに恐怖しているのか、それとも。
「偵察に決まってんだろ。撃ってこなけりゃ何もしないさ。
俺が戻らない限りドミニオンは動かない。俺1人で動く気もないし」
中で何が起きているのか知りたいだけ。
当然、そこにザフトがいるならこちらも何かしら対処しなければならない。
沈黙したM1に見切りをつけ、スピネルは堂々とその横を通り過ぎた。
あちらから、特にこれといった反応はない。
そんなものかと勝手に納得して、コロニーの反対側へやって来る。
…デブリの影に大型の熱源が3つ。
これについては、すでにドミニオン側も把握しただろう。
(見つかりませんよーに)
見つかった後のことなど考えていないが、そんなことを思いつつ。
ストライクはメンデルの内部へ侵入を果たした。
内部へ急行したキラは、途中デュエルと対峙するバスターに出会った。
そちらはディアッカにまかせ、さらに奥へ向かう。
見たのは地面へ叩き落とされたアヌビスと、コックピットを狙うゲイツの姿。
「少佐!!」
コックピットを狙わずゲイツの手足、カメラが最も内蔵されている頭部をソードで切り落とす。
アヌビスから少し離れた箇所に落ちたゲイツのハッチから、誰かが出てきた。
「あれは…」
パイロットスーツではなく、隊長クラスの白い軍服。
その人物はアヌビスを狙って手持ちの銃を撃ち、そして何か変わった形の建物へ走った。
門の辺りで振り向きアヌビスへ何事か告げて、その人物は建物の中へ駆け込む。
数秒遅れて、見慣れた人物がその後を追った。
「少佐?!何でじっとしててくれないのさ…」
これでは自分も追わなくてはならない。
周りに他の機体がないことを確認しようと、キラは周りを見渡す。
…そこで目に入った、別の建物の陰にあるMS。
「ハイペリオン…!!」
こうやって見渡さなければ、建物の陰に入る機体には気づけない。
「まさか…カナードもここに?!」
判断しにくいが、ハイペリオンに人が乗っている気配はない。
となると、彼も機体を降りてあの建物へ…?
フリーダムを降ろし、銃を手にキラは地上へ降り立った。
銃のセーフティを下ろしてもう1度周りへ目を走らせる。
…その名前を大声で呼びたい。
どれだけ危険な行為であろうと、意味もなく焦燥に駆られるキラはそれを晴らしたかった。
追いかけてくる焦燥から逃げるように、足早に建物の中へ入る。
『 BL4 HUMAN GENE MANIPULATION LAB 』
だからキラは、その表札に気づくはずもなかった。
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