豪華と言えないこともない部屋で、マリューたちは休息とも言えぬ休息を取っていた。
正確には、"取らされている"と言った方が良いかもしれない。
…部屋の外には、銃を持ったアルテミス兵士の見張り。
おそらくは、監視カメラもこの部屋のどこかにあるだろう。
AAに戻りたいのは山々だが、それは不可能に近い。

「こーんなとこに閉じ込められて、休息なんか取れるかって話だよな〜…」
フラガが呆れたように苦笑して天井を見上げた。
答えるようにため息をついたマリューは、開かない扉へ目を向ける。
「…キラ君は大丈夫かしら?」
フラガもナタルも、その言葉に表情を曇らせた。
「確かに…。フラガ大尉がロックを掛けさせたとはいえ、脅されてしまえばそれまでです」
ナタルは更に続ける。
「彼は軍人ではありません。しかし"コーディネイター"というだけで、利用される理由になり得ます」
マリューは再度ため息をつき、フラガも声を低く落とす。
だがその口から出た言葉はまったく別のもの。

「しかし俺は、"ユーラシアにコーディネイターがいる"ってのを聞いたことがあるぜ」

マリューとナタルが聞き返そうとしたそこで突然扉が開き、問答は立ち消える。
「司令がお呼びです。どうぞこちらへ」
見張りの兵たちが開けたらしい。
…普通はノックくらいするのが常識だ。
とりあえず部屋から出るが、突然のことにマリューとナタルは顔を見合わせる。
「AAに帰してくれるってわけでもなさそうだな…」
兵士の後を歩きながら、フラガは疑問を小さく呟いた。

一体、何だというのだろう?










-運命の輪・2-










連れて来られた場所は、最初に来たアルテミスの司令官室だった。
「おお、来ましたな」
そこには当然、呼び出した本人であるガルシアが。
しかし予想内とも予想外とも言える人物の姿にやはり驚く。

「キラ君?!」

その声に振り向いたのは、AAにいるはずのキラ・ヤマト。
キラはキラで、マリューたちの姿を見て驚いた。
「マリューさん!ナタルさんとフラガ大尉も?!」
無事だったんですね、と安堵するキラにフラガは軽口をたたく。
「無事なもんか。窮屈な密閉空間に3人まとめてつっこまれたんだから」
「…そんなに窮屈ではなかったでしょう」
固いナタルはすぐさま否定する。
マリューもまた、ナタルに同意した。
「確かにそうよね。結構豪華だったし」
「おいおい〜冗談も通じないのか?」
2対1じゃ勝ち目なしだな、とフラガはキラに視線を戻した。

「…ストライクの件で連れて来られたのか?」

キラは首を横に振る。
「分かりません。最初はそうだったと思いますけど…」
ガルシアを始めとしたアルテミスの兵士は、キラが"誰か"に似ていると言っていた。
しかし自分には、全く心当たりがない。
これにはフラガも首を傾げる。
「ひょっとして、俺たちがこの部屋に連れて来られたのもそれ関係?」
マリューとナタルへ話を振るが、2人とも半信半疑といった様子。
そして自分たちを連れて来た張本人であるガルシアは、どこかへ電話…内部通信を繋いでいる。
先ほどから同じ動作を繰り返していることから見て、目当ての人物に繋がらないといったところか。

何回目かの繰り返しでようやく繋がったらしく、ガルシアは誰かと話し始めた。
モニターボタンが押してあるのか、それとも相手が騒音のある場所にいるのか。
ガルシアから離れた場所に立っているキラたちにも、電話の向こうからの雑音が聞こえてくる。
もしかしたら、電話相手が格納庫にいるのかもしれない。
「…誰に繋いでいるんでしょうね」
「兵たちの言う、お前のそっくりさんじゃないのか?」
そんな当たり障りのない会話を交わしていた時だった。

『ふざけんな!てめえ俺の状況くらい分かってんだろーがっ!』

そんな怒声が受話器の向こうから響いた。
キラたちも思わずそちらを振り返る。
離れた位置でこれだけ聞こえるのだから、耳元でそれを聞いている人間には頭に響くほどだっただろう。
「あの声、どう聞いても子供よね…?」
聞こえて来た声は"大人"の声ではなかった。
かといって、キラやその友人たちのような子供っぽさが残る声でもない。
「上官に向かってあのような口の利き方とは…」
寝ても覚めても軍人のナタルは、マリューと視点が全く異なるらしい。
2人がよく衝突しているのも分かる気がする。
「言ってみれば…戦場に慣れてる少年兵って感じだな」
フラガはそう言ってキラの方をちらりと見やる。
「僕に兄弟はいませんよ」
困惑顔で答えるキラにそうだよな、とフラガはもう一度首を傾げる。
…だが、可能性としては残る。
キラが知らなくても、相手がキラのことを知っている場合が。



ガルシアは受話器を手の長さいっぱいに離し、思いっきり眉をひそめた。
騒音の大きい場所では、大声で話さなければ自分の声も聞こえない。
だがそれ以上に相手の癇に障ったらしい。
…確かに自分はMS開発についていろいろと注文をつけたが。
「多忙ぐらい承知している。そこの責任者には私から言っておこう。とにかく司令官室へ」
受話器の向こうで小さなため息が聞こえた。
上官を上官として見ない"奴"らしい行動だ。
『…で?何で俺なんだよ?』
自分に不利益なことはしないつもりか。
ガルシアは内心でにやりとしながらこう言った。
「お前の探し物を見つけたかもしれんぞ」
『…!』
相手が息を呑むのが手に取るように分かった。
「兵たちもお前に似ていると騒いでいた。紫紺の眼など他にいないだろう?」
『……』
受話器の向こうの人物は答えない。
「あまり待たせる訳にもいかん。いいな」
それだけ言うと、ガルシアは返答も待たずに通信を切った。





「……」
一方的に掛けられ一方的に切られた通信。
その受話器を置いて、少年はしばらく考え込んだ。
…少年という表現は少々おかしいかもしれない。
青年と言っても通じるだろう。

「なんだ、お前またガルシアの呼び出しかよ?」
同じ特務兵仲間が声を掛けてきた。
その声に振り返ると、長い漆黒の髪が無重力になびく。

兵というには少々細身の体つきに、中性的な整った顔立ち。
コーディネイターだからと言ってしまえばそれまでだが、数少ない女性軍人たちが嫉妬してしまう程の容姿を有する。
普通は男女問わず、その姿に見惚れるだろう。
…その紫紺の眼が放つ、刃のように怜悧な光がなければ。

黒髪の少年はため息と一緒に、持っていたデータディスクを目の前の人物に渡す。
「あとこいつを組み込むだけだから」
渡された青年はおう、と相づちを打ちニッと笑みを浮かべた。
「なかなか面白い連中が揃ってるらしいぜ?AAとか言うあの戦艦。
あの"エンデュミオンの鷹"も乗ってるって言うし」
「ふぅん…」
たいして面白くもなさそうな受け答えを残して、黒髪の青年は格納庫を後にした。

…実際どうでも良いのだ、他の連中のことなど。
捜し続けていた人間に比べれば。

その心に渦巻く感情は、何よりも、誰よりも強い憎しみの火。










/






2004.2.9