どうやらキラは、アークエンジェルへ帰されたらしい。

そんな話を見張りの兵士に聞いただけ。
また元の部屋に戻されたマリューたちは、ただキラの身を案じていた。



ガルシアがキラを連れて来た理由。
『カナード・パルスがキラ・ヤマトを捜していたから』
当人はそう言った。
しかし一兵士の個人的であろうことに、上官がただで手を貸すとは思えない。

『手放すわけにはいかない』

そう上に思わせる程"カナード"という少年の能力は凄いのか。
それとも他に何か理由があるのか。

ただ三人とも、その少年に"ただならぬもの"を感じたことだけは確かだった。










-運命の輪・4-










ガルシアが司令部から戻ろうとしたところ、ちょうどそこへカナードがやってきた。
相変わらず不機嫌そうな様子を見ると、どうやら"大事"は起こさなかったらしい。

「厄介事は起こしておらんようだな」

すれ違い様に呼び止めたガルシアを、カナードは五月蝿そうに振り返る。
しかし本人を包む雰囲気が少し違った。
刺々していて近寄りがたいのはいつものことだが、どこか"煮え切らないもの"を持っている。

もっとも、それは本人が一番良く分かっている。



「…あんな奴、殺したってつまんねえ」

カナードはそう吐き捨てた。



今まで自分が受けてきた屈辱。
それはどうやって生きてきたのか分からなくなるくらい。

自分の"過去"の原因を見つけたとき。
"生きる理由"も"戦う理由"も、すべてがこの時のためだった。

『キラ・ヤマトを殺す』

この手で殺せば自分の中の怒りも憎しみも、少しは満足感に風化すると思っていた。
だが実際はどうだ。
その"キラ・ヤマト"は安穏と平和に生きていた。
"知らない人間に殺される"
その事実に、意味もなく怒りを持っていたような奴だった。
そんな奴を殺したところで意味がない。
…それではむしろ、"相手のため"になってしまう。

キラ・ヤマトにとっては、何も知らずに死んだ方がましだという状況だから。



「でも逃がさねえ…絶対に」

そう呟いて通路の向こうへと消えたカナードを、ガルシアは不可解そうに見送った。










人気がなくなった通路でカナードは立ち止まる。



『キラ・ヤマトを殺す』

それが目的であることに変わりはない。
だが"今のまま"では、殺したところで本当に意味がない。



だから壊した。

あいつの"心"を。



あのとき、"真実"を突きつけた瞬間、確かにあいつの心が壊れる音がした。
まあ、"裏切り者"とでも誰かが言えばそれで簡単に壊れただろうが。






"民間人"なのに"軍艦"に乗り、"MS"に乗り、"ナチュラル"の中で"ただ一人"の"コーディネイター"



けれどそんなものでは足りない。



「もっと苦しめばいい…」


自分の生きてきた道と同じくらい。
それくらい、それ以上に苦しんで壊れてしまえばいい。









やっと見つけた憎しみの矛先。






「絶対に逃がさない」












まずは砕けたココロがどう繋がるか。


それが見物・・・










/






2004.2.24