「…ったくシャニの奴、俺に押しつけやがって……」

廊下を歩きながらぶつぶつと愚痴るクロト。
その手には朝食?のトレーを持っている。(←宇宙なので時刻は不明。しかもクロトは時間を気にしない人間)
行き先は先日捕らえたMSのパイロットがいる部屋。
・・・押しつけられた物をさらにオルガに押しつければ事は済んだのだが。

「…でも気になるしな〜あのパイロット……」
あの何事にも興味を示さないシャニの知り合い…というか顔見知り。
どんな奴なのか気にするなというのは無理な話。


クロトはため息をついた。






-自由の鳥・3-







「あれ、シャニじゃない……」

入るなり言われた第一声がこれ。
クロトは少々ムッとした。
「あんな奴と一緒にされてたまるか!」

そう言って、目をパチクリさせているキラに食事のトレーを押しつける。
「あ、ありがと。ねえ、今何時か分かる?ついでに日にちも教えてくれたら嬉しいんだけど…」

自分に不信感も持たずに話しかけてくる目の前の人物に、今度はクロトが目を丸くした。
「お前がここに来て二日目だ。けど何時かは知らないよ」
「ふーん、時間気にしない人なんだ…。変わってるね」

クロトはさらにムッとした。
「変な奴なのはお前だろ!えーっと…名前知らないけど」
そう言うと今度は向こうがムッとしたらしい。
「僕はキラ!キラ・ヤマトだよ!僕のどこが変なのさ?!」
キラは真正面から言い返した。
・・・何しろここにいる彼以外にもすでに"変な奴"と言われたのだから。
「そういうトコが変なんだよ!大体、敵に捕まってその敵が目の前にいるのに平然としてるし」

それを聞いたキラはハッとした。
「じゃあ、貴方もシャニと同じMSパイロット…?」




そのキラの驚きようにクロトは言い返す気を削がれてしまった。
「?お前みたいのが乗ってるんだから不思議じゃないだろ」
「…そうだけど……」
キラの心境は複雑だった。



・・・またもう一人、敵を知ってしまった。

相手を殺さないように戦っているつもりだが、やはり無理がありすぎる。
そして自分でも抑えが効かなくなるときがある。


「…どのMSに乗ってるの?」
キラは俯いたまま尋ねた。
「変形するヤツだよ。黒い機体の」
クロトは俯くキラに疑問を感じながらも答える。

「…じゃあアレは……」

・・・ここで目覚める前の、一番新しい記憶。
コクピットで受けた大きな衝撃と目に映った黒いMS。
ビームでもソードでもないアレは……



そこまで考えてキラは首を横に振った。
・・・考えてももう意味がない。
それよりも気になるのは……

「クロトは…何のために戦ってるの…?」
「はあ?」

クロトはキラの問いに首を傾げた。
・・・何のために戦ってるか、だって?
「そんなもん、殺らなきゃ殺られるからに決まってんじゃん」

驚いて目を見開くキラ。
「じゃあ、クロトは志願兵じゃない…?」

最初に比べると連合側もだいぶ変わってきた。
アークエンジェルに乗ったばかりの頃、地球に降りたばかりの頃。
まだコーディネイターとの共存を計ろうとするナチュラル上層部も存在していた。
・・・しかし今は。
『蒼き清浄なる世界のために』を合い言葉にする、ブルーコスモスの関係者ばかりで軍は成り立っている。
コーディネイターの排除、完全消滅、それが勝利への条件。
そして戦争を肥大化させるばかりの連合軍。
・・・それはプラント側にも言える他者廃絶論。



「志願…した覚えはないけど何でここにいるかも覚えてないし。出ろって言われたら出て相手を殺るだけだよ」
そう言ってクロトはドアに手を掛ける。
しかしふとキラの方を振り返って言った。
「この艦にブルーコスモスの盟主が乗ってる。気を付けた方がいいぜ」
「!?」

・・・やはりブルーコスモスの盟主が前線に立っている…?

キラはクロトの言葉に驚きを隠せなかった。











一方、部屋から出たクロトは扉のところでため息をついていた。

「やっぱり変な奴だな…」

・・・ってゆーか何でわざわざ教えてやったんだよ、あのおっさんの事…








少々自分に腹を立てつつ呆れつつ、クロトはその場を後にした。