自由の鳥

「あれ？シャニでもクロトでもないや…」

部屋に入るなり言われた台詞がこれだ。

「あの馬鹿どもと一緒にすんじゃねーよ！」
オルガはそう吐き捨てると食事のトレーをキラに押し付けた。

・・・シャニとクロト、二人そろって興味を示した人物。
どんな奴かと思えば外見同様、中身も戦争に不似合いな奴だった。

-自由の鳥・５-

食事をつっつきながらキラは窓際に座る人物をじっと見つめた。

名前はオルガ・サブナック。
・・・聞かずともあの重戦車のような青いMSのパイロットだと分かった。
少年兵と言われるタイプはおそらくシャニたち三人だけなのだろう。

キラの視線に気づいたのか、オルガは読んでいた本から目を離す。
「何だよ？」
ううん、と笑ってキラは首を振った。
「何でもないよ。ただオルガ入って来たとき、クロトと同じ事言ってたから」
きっとシャニも順番が違えば同じ事を言ったに違いない。

キラの言葉にオルガは心底嫌そうにもう一度言った。
「あいつらと一緒なんて死んでもごめんだな」
「…ふうん」
そういうものなの？とキラは首を傾げると食事に専念する事にした。
・・・シャニ、クロト、オルガ。
三人に会ったキラから見ると仲が良さそうに見えるのだが。

オルガに言わせると、そうやって"不可解だ"と首を傾げるキラの方がかなり不可解だった。

捕虜としてここにいる事に恐怖するでもなく、自分の命が第一という考え方でもない。
そして初対面の自分を警戒するでもなく。
・・・賢明なのか馬鹿なのか全く分からない。

「…お前変わった奴だな」

思わず本音が口をついて出た。
それを聞いたキラはうう～、と顔をしかめる。

「何でオルガもそう言うかな～？シャニもクロトも同じ事言うし…」

オルガはオルガで"またあいつらかよ…"とうんざりする。
・・・しかし本当の事なのだからこれは仕方ない。

キラがドミニオンに連れて来られてからだいぶ経った。
・・・と言ってもまだ一週間も経っていないが。
そんな両手で数えられる日数のうちで"変だ"と言われる事三回。
自分なりに考えてはみたが自分のどこが変なのか全く分からない。

「ねえ、僕のどこが変なの？」

キラの問いにオルガは読んでいる本から目を離した。
「どこがって…そういうとこに決まってんだろ」
「は…？」

ますます分からない。
・・・聞いたところで無駄だったか。

そんなキラの心の声を聞き取ったのか、オルガは分かりやすく説明してやる。

「だから、お前の言動が俺たちには理解不能なんだよ。初対面でしかも敵なのに警戒するでもないし緊張感もない。
怖がりもせずに普通に笑ってるし…って言ってたらキリがねーな」

オルガは本を閉じ、キラの方を向いた。

「それに…自分の事以外の事を心配するってのが一番わけ分かんねえ」

それ言ったら艦長もわけ分かんねえな、とオルガは付け足す。
キラは真剣な眼差しでオルガを見つめた。

「…じゃあ、オルガは何でMSに乗ってるの？」

どうも話が飛んでいる気がするがその真剣な目には何故か逆らえない。
オルガは一つため息をつくと口を開いた。
「そんなもん知るかよ。殺らなきゃ殺られるんだから」
「……」

返ってきた言葉にキラは言葉を失った。

オルガはそのまま席を立つと、用は済んだとばかりに部屋を出て行った。
カシャン、と電子ロックの掛かる音を残して。

シャニも、クロトも、オルガも。
三人とも戦っている理由が分からない。

実際に生身の彼らに会った時、実はかなり驚いた。

・・・戦った時に感じたパイロットの雰囲気が予想と全く違ったから。
それはまるで、人格が変わっているかのように。

三人がどういう理由でMSパイロットになったのか、それを聞く権利を自分は持っていない。
たとえ持っていたとしても彼らが答えてくれるとは思わない。
"戦争"をどう思っているのか、何をしたいのか、何を見つめているのか。

自分は…何も知らないまま。

ふと、しばらく会っていない友人たちの言葉が脳裏をよぎった。

『貴方は優しすぎますわ。いろいろなモノを全て一人で背負ってしまって…。
けれど、他の方だけでなく自分の事も大事にしてくださいね』

ラクス…。
こうやって捕まっちゃった時点で自分を大事にしてないね、僕は。

『お前は何でそう、いつも全て一人でやろうとするんだ。
一人じゃないんだから少しは俺たちを頼ってくれ』

アスラン…。
やっぱり僕は一人でやってしまおうと無茶をしたんだね。

『ああもう、心配ばっかりかけさせて。お前が死んだら私も…皆が悲しむんだ！
とにかく無茶するんじゃないぞ！』

カガリ…。
僕はまた無茶をしたみたいだから心配させてるね、きっと。

逃げないといけない。
フリーダムと共にここから早く逃げ出さなければいけない。

"ブルーコスモスの盟主"がこの艦に乗っているのだからなおさら。

けれど固い決心に繋がってくれない。
ずるずると三日以上経ってしまっているだろう。
このまま平穏に済むとは到底思えない。

「…理由は分かってるんだけどな……」

あの時、フォビドゥンとレイダーの猛攻を受けた時。
無意識のうちに全て避けようとしなかった自分に気づいたから。

"フリーダムとジャスティスの捕獲"がドミニオンの目的だという事は分かっていた。
だから捕まったとしてもすぐに殺される確率も限りなく低い。

だから。

ひょっとしたら僕は…"この艦に捕まれば会えるかもしれない"と、そんな危険な賭けをしたのかもしれない。

少し前に、月の下で出会った"彼"に。

「そういえばトリイ、どこ行ったんだろ…？」

またシャニの所にいるのかな？

そんな事を考えて、キラはくすりと笑った。

『一緒ニ居ラレルノハ…会エルノハ、イツマデ……？』

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