連合軍。
コーディネイターと敵対するナチュラルの軍隊。
・・・そこにたった一人混じっているコーディネイター。
何故彼はここにいるのだろう…?






-『コーディネイター』であること・2-







(そろそろこのMD聞き飽きたな…)
シャニはMDプレイヤーの電源を切った。
特にすることもなくただ音楽を聴きながら艦内を歩いていたが、そういえば何かを考えていた気がする。
・・・一体何を考えていたのか。
それを考えながら、シャニの足は自然と格納庫へと向かっていた。



しばらくすると整備士達が忙しなく出入りする通路へやって来た。
シャニは次に何故自分がここへ来たのかを考えなければならなくなったが、格納庫への入り口へ曲がったときその必要はなくなった。


ドンッ!!


走ってきた誰かと思いっきりぶつかり、シャニはぶつかってきた相手共々倒れてしまった。
「…ってーな」
文句の一つも言ってやろうと顔を上げる。
しかしぶつかってきた人物を見た途端、驚きが勝ってしまい怒りが消えてしまった。
「ご、ごめんなさい!!大丈夫ですか?!」
必死で謝るその人物は鳶色の髪に紫紺の瞳。
「……お前…」
名前は何だったか。
思い出そうとしたがその前に相手がこちらに気づいた。
「あれ…シャニさん?」

とりあえず先に立ってその人物を立ち上がらせる。
「…思い出した。キラ・ヤマトだっけ?」
必要ないことは覚えないので随分と時間がかかったが、当の本人は気にする様子もない。
「キラ、で良いですよ。ちょうど良かった、捜そうと思ってたんです」
「…何で?」
キラが答える前に別の声が聞こえてきた。
「おいキラ、大丈夫か?」
「あ、オルガ。大丈夫だよ。ぶつかったのは僕だし」
そうか、と言った後で初めてオルガはシャニに気づいた。
「お前がぶつかったのってシャニか?」
「そうだけど…?」
質問の意図が分からず困惑するキラ。
本人は気づいてないようだが、整備士達の中に…というかクルーの中には、少なからずキラを快く思ってない人間がいる。
その多くがコーディネイターと聞いただけで露骨に嫌な顔をする奴だ。
「ぶつかったのがこいつで良かったな…」
別の奴だったら何をされるか分かったもんじゃない、と付け加えてオルガは艦内に戻っていった。

シャニはオルガが言わんとしていることが何か、なんとなく分かった気がした。
・・・やはりここではコーディネイターは異色の存在なのだ。



「あの…シャニさん?」
キラはさっきからずっと黙ったままのシャニに首を傾げる。
「…"さん"はいい。ウザい」
思いもよらない返答にキラは驚いたが、人間見かけに寄らないと改めて思った。
「そう?じゃあシャニ、コクピットに入っても良い?」
「…は?」
「え、だってクロトにもオルガにも聞いたし…シャニにだけ聞かないっていうのも変でしょ?」
どうもシャニが不思議に思ったことと、キラが考えていることが少しずれているらしい。
「そうじゃなくて…アンタ整備士じゃないの?」
「そうだよ。でもダガーならともかく自分の機体勝手に弄られるのって嫌じゃない?僕は嫌だけど」
「……」
シャニは何だかキラに流されているような、そんな感じがした。






特にすることもなく、シャニはキラの恐ろしく速い作業をなんとなく眺めていた。

「ヤマト少尉ー!ちょっと良いですか?」
少し離れたところから別の整備士がキラを呼んだ。
「えーと…あと五分待ってくれる?」
そちらへ目線を合わせることなく、作業を止めるでもなくキラは叫び返す。
返された整備士は分かりましたと言うと別の場所へ移動していった。
他の整備士を見てみても、どうやら露骨にキラを嫌っているらしい様子はない。
・・・思ったよりもキラを慕う(←?)人間は少なくないようだ。

きっちり五分経ったであろう頃、キラはひょいとフォビドゥンから出てきた。
「もう終わったの?」
「うん。シャニのおかげだよ」
「?」
・・・何もしていないのに何故そんなことを言われなければならないのか。
そんなシャニの心情を予期していたかのようにキラは笑った。
「シャニが傍にいてくれたおかげで余計な仕事押しつけられずに済んだから」
オルガもクロトもシャニも怖がられてるんだね、とくすくす笑う。
本来のシャニなら腹を立てるだろうが、何故かキラにはそうしたものを感じない。
そんなことよりも先のキラの言葉は一体…?

「…余計な仕事?」
そう聞いてみるとキラは下の階で整備士達に指示を出している白衣の男を示した。
「ほら、あの人。整備とかの責任者らしいんだけど、ホント苛めにしか思えないような事ばっかり押しつけてくるんだ。
何か僕がここのリーダーみたいになっちゃってるのが嫌みたいなんだけど。
それなら他の人に指示ばっかしてないで自分でやればいいのにね」
その分じゃアズラエルさんの方が良い人だよ、とキラは苦笑する。
そこでシャニは当然の疑問を口にした。

「なんでキラは連合にいるの?」



キラはすぐには答えず、沈黙が続いた。
・・・約束の五分が経ったのにさっきの整備士が来ないのは何故だろうか。





「…成り行きだよ。最初はね」
ようやくキラが重い口を開いた。
「へリオポリスにいて…ザフトのGシリーズ奪取作戦に巻き込まれて。
その時マリューさん…アークエンジェルの艦長さんに助けてもらったんだ。
それからは一緒に乗った友達を守るために戦った」

シャニは(本人にとっては)古い記憶を探った。
そういえば随分前にそんなことがあったと聞いた気がする。
「じゃあキラは民間人…?」
ザフトならともかく連合で民間人が軍に志願するなど本来なら有り得ない。

「ドミニオンに来たのは…何でかなあ?僕もよく分からないんだけど。
新型MSを一カ所に集めようとしたのかな?アークエンジェルはあれだけで強いし。
それにあそこにはフラガ少佐とストライクも乗ってるしね」

そこまで言ってキラはぽんと手を叩いた。
「あ!さっき誰か呼んでたよね、忘れてた。
じゃあシャニ、不備はないと思うけど自分で最終チェックしといてね。変なとこあったらやり直すから」
そう言うとキラは階段を駆け下りていった。





「……慌ただしい奴…」
シャニはしばらくその場を動かなかった。

キラがドミニオンに来た経緯は分かったが、何故彼を異動させたのか。
結局アズラエルの真意は分からずじまい。
・・・キラ本人に聞けば分かるんじゃなかったのか。



「どーせ俺らと似たよーなもんか…」



そう呟くとシャニは艦内へ足を向けた。





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