「補給作業急げ!」
「B班!何をやっている!」
様々な放送と怒声が響くドミニオンの格納庫。
整備士達は補給と修理のために一時帰還したカラミティ、フォビドゥン、レイダー、そしてフリーダムの整備に追われていた。
-『コーディネイター』であること・3-
(…ヤバイ、ふらふらする……)
更衣室で軍服に着替えたキラは目の前が歪むのを感じた。
以外と時間のかかる補給と修理。
特にフリーダムの破損部分は直そうとすると少々難解な部分。
ただ一人フリーダムを操れる自分が指示しなければならない。
「おいキラ、顔色悪いぞ。大丈夫か?」
先に着替え終わり、暇つぶしのゲームの準備をしていたクロトはいつもと様子の違うキラに声をかけた。
今日の戦闘はこれで三回目。
昨日、一昨日と連戦が続いている。
今日はフリーダムの動きもどこかいつもと違っていた。
しかし不調子なことを悟られたくないキラはなんでもないふりをした。
・・・心配も負担もかけたくない。
「クロト…。大丈夫だよ(たぶんね…)」
「何だ?その微妙な沈黙は……」
眉をひそめるクロトを後に残し、キラは自機フリーダムへと向かった。
案の定、すでに整備士たちが集まっている。
順を追って直すべき箇所などを説明していくが、キラはだんだんと焦点が定まらなくなってきていた。
そして一通り言い終えた頃にはすでに意識が朦朧とし始めた。
「…ヤマト少尉?」
頭を押さえていてどこか様子がおかしいキラに整備士の一人が呼びかけるが、すでにキラには遠くに響く音としてしか受け取れなかった。
ぐらり、とキラの足下が揺らぐ。
「ヤマト少尉っ!!」
慌てて手を伸ばした整備士の努力も虚しく、キラは仰向けに倒れ込んだ。
しかし鈍い音ではなくぽすっという音がキラを支えた。
「…アンドラス少尉……」
自分がいることに驚いているらしい整備士をきれいに無視して、シャニはキラの額に手を当てた。
「うわ、すごい熱…」
その体温は三十八度を軽く超えていそうだ。
「何の騒ぎ…ってキラ!やっぱり調子おかしかったんじゃねーか!!」
クロトが慌てて駆け寄ってきた。
・・・自分の目は確かだったが、どうもキラの性格をまだ把握していないらしい。
「おいおい、マジかよ…」
そのすぐ後にやって来たオルガもまた頭を抱えた様子。
・・・こちらもまたキラにしてやられたらしい。
「…キラの部屋ってどこだっけ?」
シャニはひょいとキラを横抱きに抱えると振り向いて尋ねた。
「このバカ!お前の部屋の隣だろっ!!」
クロトが呆れと怒りを含んだ声で叫ぶ。
しかしシャニはそれを無視して艦内へと消えた。
「ちっ、仕方ねえ…」
しばらく何か考えていたらしいオルガは舌打ちをするとシャニに続いて艦内へと足を向けた。
「おい馬鹿オルガ、どこ行くんだよ?」
「バカはお前だよ、馬鹿クロト。キラをあのまま戦わせるわけにゃいかねーだろーが」
・・・おそらく彼の行く先はブリッジだろう。
いつもなら何か言い返すクロトだが、今回はまったくそのとおりだったのでオルガを見送るしかなかった。
暇つぶしをしようにも出来なくなったクロトはとりあえずキラの状況を把握することにした。
「おい、お前ら。最初の戦闘前のキラは普通だったか?」
周りに大勢集まっていた整備士たちに誰となく聞いた。
「…ええ。話したりもしましたがいつもと変わりませんでした」
整備に関して一番キラと接触が多いチームの代表が答えた。
「じゃあ二回目の戦闘の後は?」
「ヤマト少尉が、というか…フリーダムが被弾した箇所が、いつものヤマト少尉なら絶対撃たれないような場所だったんです」
「で、聞いたのか?」
「ええ。どうかされたんですか、とお尋ねしたんですが…」
「?」
「…あの笑顔で返されてしまうと何とも……」
その整備士の周りの者も一斉に頷く。
クロトはため息をついた。
・・・どうやら彼らもまた、自分たちと同じようにしてやられたらしい。
しかしここでいつまでもしゃべっていては次の出撃に間に合わなくなってしまう。
「…倒れちまったもんは仕方ねえ。ほら、さっさと整備に戻れ」
・・・キラが目覚めたら文句を言ってやろう。
そう言って整備士たちを仕事に戻らせたが、その中には嘲りに似た視線があった。
確か整備の責任者だったか、白衣の男の嫌な視線。
自分ではなく、キラに向けられていたその視線とその張本人をクロトは見逃さなかった。
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