「ヤマト少尉が倒れた?!」
オルガの報告にナタルは思わず立ち上がってしまった。
そのリアクションにオルガを始めとするクルーたちは驚いた。

そんな彼らを気にするわけでもなく、ナタルは艦長席にある電話を繋ぐ。
「ローガン博士、ちょっと診て欲しい患者がいるのですが…」
ほんの少しの会話で電話を切ったナタルにアズラエルは眉をひそめて聞いた。
「…何故"彼女"を?」






-『コーディネイター』であること・4-







廊下に規則正しい靴音が響く。

次の戦闘への準備のためにほとんど人がいない艦の内部。
ひらりと白衣を翻らせて、その女性は目的のドアの前で足を止めた。



・・・シュリア・ローガン。
かつて彼女は新型MSに乗る者たちへ投与する薬を研究、開発するチームのリーダー的存在だった。
そして現在オルガたち三人が服用する薬は彼女が開発した物。
しかしその副作用が起こす人体への影響を考えず、人間を"道具"として扱う上の人間、そしてチームの人間に反発。
結果として開発チームから追放され、今はドミニオンの医療チームのリーダーとして動いている。
ドミニオンの艦長であるナタルとはここで初めて会ったがどこか気が合い、それなりに仲が良い。
連合理事のアズラエルを快く思っていないところも同じだったらしい。



「…ここね」
彼女が立っているのはキラの部屋の前。
ナタルに直接"診て欲しい"と言われたのでは(やはり艦長なので)断れない。
とりあえずノックをしようとした時、別の方向から来る足音に気づいた。
「誰だ?アンタ…」
不信感を隠そうともせずに尋ねたのはオルガだった。
同じ白衣の開発チームの人間に散々な目に遭わされているのでまあ、当然だろう。
シュリアは顔だけをそちらに向けて返した。
「私はシュリア・ローガン。艦長に倒れた子を診て欲しいと頼まれてね」
凛とした声は遮る物がない廊下にスッと響く。
オルガはふーん、と不信感を崩さずにシュリアを見やるとノックもせずにドアを開けた。
・・・誰かがいたとしてもそれが誰なのか大体は分かり切っている。


開けてみるとそこにいたのは二人。
ベットに寝ているキラとめんどくさそうに窓際に座ってMDを聞いているシャニ。
オルガに気づいたシャニはプレイヤーの電源を切ったが、顔を上げた時にオルガの後ろの白衣に気が付いた。
「…そいつ誰?」
シャニの問いにオルガはそうだった、といった様子で道をあけた。
「キラを診に来たってよ」
シャニもまたふーん、といった感じでシュリアを見やる。

良い印象は持てないが邪魔にはならないと判断し、シュリアはキラの診断を始めた。










それから数分後、予告もなしに勢いよくドアが開かれた。
「おいシャニ、オルガ。出撃だってよ!」
言われた本人のシャニとオルガは声の主のクロトをうるさそうに見る。
ちょうど簡単な診察を終えたシュリアは立ち上がって三人をぐるりと見回した。
「貴方達がキラ君に一番近しいらしいわね。これからはもうちょっとキラ君に気を配りなさいよ」
「「「…は?」」」
いきなり言われても何のことか分からない。
シュリアは小さくため息をつくともう一度口を開いた。
「キラ君が倒れた理由は極度の疲労蓄積。ついでに軽い栄養失調にもなりかけてるわ。
確かに彼はコーディネイターだけど、だからといって無理させたら倒れるのは同じ人間なんだから当たり前。
嫌みで仕事押しつける輩からキラ君を守ってあげなきゃだめなのよ。
ナタルの話じゃ彼、相当無理するタイプみたいだし」

一息に言ってしまうとシュリアは三人を部屋の外へと追い出して自分も外に出た。
「ほら、出撃なんでしょ?さっさとなさいな。
終わったらまたここに戻ってきてね。キラ君も目覚めるだろうし」
そう言い残すとシュリアはまだ呆気に取られている三人を残してさっさと戻っていった。








三人はしばらく去っていくシュリアを見ていたが、各々"めんどくさい"とか言いながらようやく足を動かした。






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シュリア・ローガンに50の質問