「…キラってさ、自分のことに無頓着なのか?」
「えっ、そうなの?」
「あのな、じゃなかったら倒れたりしねーよ。俺らはともかく」
「そうそう、調子悪かったら言えっての!」
「…だって心配掛けたくなかったし……」
「バカ、倒れたら余計心配するだろ」
「…倒れた奴のセリフじゃないね」
「………ごめんなさい;」
-『コーディネイター』であること・6-
倒れてから数時間。
キラはようやく目を覚ましたが、オルガ・クロト・シャニに説教を食らっていた。
・・・アークエンジェルにいた時も似たようなことがあったような…。
「あらあら、賑やかね〜。キラ君はいちおうまだ病人よ?」
クスクス笑いながらシュリアが入ってきた。
ついさっき目覚めたばかりのキラはもちろん初対面だ。
「初めまして…ってとこかしら。そこの三人とはもう話したから。
私はシュリア・ローガン。医療班の一人よ」
「あ、キラ・ヤマトです。初めまして」
律儀な挨拶が返ってくる。
シュリアはなんとなく、オルガたち三人がキラの傍にいることの理由が分かった気がした。
いろいろと聞きたいこともあったがとりあえず、(先の戦闘により)後がつかえていそうなのでキラの診察をする。
「もう熱もないしもう一眠りしたら全快するんじゃないかしら?
いちおう薬あるからちゃんと飲んでね」
そう言ってキラが渡された袋には錠剤とカプセルが数個。
「キラが倒れたのって疲労が原因じゃなかったのか?」
オルガは首を傾げる。
・・・疲労が原因なら薬なんか必要ない気がするが…
シュリアはその問いにああ、と思い出したように答えた。
「正確に言うと薬というよりも栄養剤。
キラ君、貴方軽い栄養失調になりかけてたんだからね」
「ええっ?!」
・・・本人が一番自覚なし。
シュリアは更に続けた。
「今渡した薬は明後日の夜まで一日三回基準で、ちゃんと食事を取ってから飲んでね。
で、貴方達はキラ君が飲むのを忘れてたら、どんな手段使っても良いから飲ませてちょうだい」
「「「はあ?」」」
三人の疑問符が重なる。
しかしシュリアはそれを無視して勝手に話を進めていった。
「あ、あと普段からキラ君の傍にいるのは誰?」
さっきからころころと唐突に変わるシュリアの問いに、キラを除く三人は呆れるやら疲れるやら。
たっぷり十秒ほどはあったと思われる沈黙の後、ようやくその内の二人が答えた。
「あら、じゃあシャニ君だったの?」
「………は?」
シュリアのちょっと驚いたような返答。
・・・それ以前にシャニは何を言われているのか分かっていなかったが。
横を見てみるとオルガとクロトが何やら自分を指差している。
・・・失礼な奴らだ。
"そうなの?"とキラに同意を求めるシュリア。
キラは少し考えるそぶりを見せたがすぐに頷いた。
「そうですよ。シャニが傍にいてくれるようになってから整備がすごく楽になったんです」
そう言ってキラは"ありがとう"とシャニに微笑む。
「……」
先程の話をよく聞いてなかったのか、シャニは今ひとつピンとこないらしい。
・・・というか何でキラに礼を言われているのだろう?
そんなシャニは気にせずに、シュリアはどんどん話を進める。
「じゃあ今日からシャニ君はキラ君の監視係ね」
「か、監視係?!」
「…はあ?」
キラとシャニの驚きが重なる。
「キラ君、貴方集中したら食事も忘れるタイプでしょ?」
シュリアの的を射た問いにキラは反論の語を出せない。
そんなことは予想済み、とばかりにシュリアは笑って言った。
「だからキラ君がそんなことしないようにシャニ君が監視するの。OK?」
次々と相手を追いつめて肯定させる言葉を繋ぐシュリア。
(((何なんだ、この女…)))
彼女が部屋を出ていくのをオルガ、クロト、シャニはそんな疑問で見送った。
「…何か凄い人だね、シュリアさんって……」
静まりかえった部屋の中、キラはポツリと呟く。
その声にようやく我に返った三人。
「ところでさ。僕、倒れたときにものすっごく嫌〜な視線感じたんだけど…」
"誰だったか知らない?"とキラは尋ねる。
「あ〜、その視線なら俺も感じたぜ。誰かは見えなかったけど」
「…俺も感じた」
そこでクロトはあっと思い出した。
「僕見たよそいつ。白衣着てて…って白衣着てる奴多いけど。眼鏡掛けてるおっさんだったな」
「ああ、よくキラを睨みつけてるキモイ奴……」
「…やっぱりあの人か…ホント嫌なんだよね」
キラの傍にいるせいで睨まれているらしいシャニ。
そしてその人物に心底うんざりしているらしいキラ。
二人の様子を見ていたクロトはナタルが聞いたら大声で説教しそうな言葉を吐いた。
「そんなに邪魔な奴なら消せばいいじゃん」
キラは少し眉をひそめた。
「…戦争してるのに味方殺してどーすんの」
今度はクロトが眉をひそめた。
「ふーん、そーゆーモンなの?…じゃあ病気にするとか」
クロトにとっては…とういうよりアズラエルにとって、味方を犠牲にする戦い方は普通なのだろう。
シャニもオルガも、三人ともが"生きる"ことに無関心なのはそんな環境にいるせい。
・・・そしてキラも。
ゲームに負けたら死ぬのは当たり前。
そんな、日常がギャンブルのような生活。
「それもダメ。僕の仕事が増えちゃうよ」
整備士も兼任しているキラにとって、たとえ嫌な相手でもしている仕事は同じ。
結果的には仕事を減らしてくれているようなものだ。
「…そりゃそーか」
クロトはあっさりと引き下がった。
「だからシャニ、ちゃんと僕の傍にいてね」
傍にいてくれたら僕の仕事が減るから、とキラは付け足した。
「……」
シャニはため息をついた。
・・・さっきから自分の意向に関係なく話が進んでいる。
しかも拒否権はなし。
沈黙を肯定と取ったキラは微笑んだ。
「でもシュリアさんっていい人だね。ナタルさんの友達だっけ?」
そう言われて"そんなことも言ってたな"と思い出す三人。
「いい人ねえ…。アズラエルとかと違うってのは分かるけど」
オルガはよく分からない、といった風に笑う。
「いい人だよ。だってコーディネイターもナチュラルも関係ないって感じだったから。
じゃなかったら軍の人が僕の心配なんてしないよ、普通」
「…そりゃ嫌な奴って感じはしなかったけどさ」
クロトは半分納得したらしい。
「マリューさんたち元気かな…」
キラはシュリアやナタルと同じように自分の心配をしてくれたアークエンジェルの人々を思い出す。
・・・今は自分と同じように正式な軍人となったトールたち。
彼らが無事でいることを今更のようにキラは願った。
・・・壊れるのは、僕だけでいいから。
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