「大丈夫なんですか?この艦だけで…」

アズラエルはナタルを見てそう言った。
もうすでに日常茶飯事になってきているこの状況。
しかしナタルにとってはかなり鬱陶しいものだった。

・・・軍人でない者が分かってもいないくせに横やりを入れてくる。
軍人であることに、艦長であることに誇りを持つナタルには少々耐え難い。


「…死にたくないなら黙っていてください」


ナタルの冷たい視線と言葉。
「相変わらず怖いですねえ」
アズラエルは冗談、と言うかのように肩をすくめた。


ナタルは小さくため息をついた。

「機関全速。目標、ザフト軍前線基地」

スッと前を見つめる。


「ドミニオン発進!」






-『コーディネイター』であること・8-







スカイグラスパーやストライクダガーに続いて射出された四機のMS。
キラの造ったリフターユニットのおかげで四機全てが単独行動を起こせるようになった。
しかし…

「何だよ、雑魚ばっかじゃねーか」
「…うざーい」
「どこにいるんだよ、向こうのGシリーズ!」
「僕に聞かないでよ!!」

いきなり四人で口論になるという、ある意味最悪の事態。
原因は前線に大量にいるジンやディン、グーンなど。
・・・肝心のクルーゼ隊はまだ見えてこない。

キラはため息をつくが開き直った。
「でも撃ち放題ってことだよね。僕らが好き勝手暴れたら出てくるよ」
言うが早いか、キラはすでにかなりの数をロックオンしている。
「邪魔なのに変わりねーしな」
「…つまんなーい」
「ま、キラの言う通りかもね」
他の三人も同様意見。

フリーダムのビーム砲、フォビドゥンの屈折ビーム、レイダーの二連装ビーム、カラミティの大径ビーム砲。
虹色にも見える閃光が走り、戦闘は一気に加速した。

「おらおら!弱えーんだよてめえらっ!!」
「滅殺っ!!」
「うざーい!!」
「…向こうが出てくる前に全滅したりして」
戦火の中を飛び交う連合のMS。
「ミサイル発射管、全門開け!ゴッドフリート同時発射、撃てー!!」
ドミニオンではナタルが手腕を発揮し、あっという間に戦艦の30%ほどを沈めていた。

その様子をモニター越しに静かに見つめるクルーゼと難しい顔で睨むヴェサリウスの艦長アデス。

「たった一隻の戦艦でここまでやるとはな…」
クルーゼは"称賛に値する"といった口振り。
「しかし問題は足つきではなく連合の新たなGでしょう」
アデスは相変わらず堅い口調だ。
・・・確かにMSはずっと後方で撃つドミニオンよりも扱いが悪い。
クルーゼは当然、とばかりに笑った。
「だからこそ我が隊のGを出撃させたのだ。それで無理なら引くしかないな」
クルーゼはヴェサリウスとガモフの出撃準備を命じた。





「何なんですか、あのMSは!やりたい放題じゃないですか!!」
ブリッツのパイロット、ニコルは悲惨な状態の前線側を見つめる。
「ちっ、ストライクはいないのかっ!」
デュエルのパイロット、イザークは舌打ちをした。
その横を被弾したジンやディンが次々と引いていく。
「かなりの被害じゃないのか、これ。一体どんなMSだよ向こうのは…」
バスターのパイロット、ディアッカはやれやれとばかりにため息をつく。
「足つきもまた別の艦だ。そしてストライクではない白い機体か…」
ザフトの新たな切り札とも言える紅いG・ジャスティスのパイロットのアスランは複雑だった。
・・・あの白いMSの構造はジャスティスと似ている。
そしてもしあれにキラが乗っていたら。


「来たよ、向こうのG」
キラの声に基地の方を見ると、引いていくMSの中で四機がこちらに向かっていた。
「ったく、遅いんだよ!!」
オルガは四機に向かってビームを乱射する。
「オルガ!てめえ勝手にやってんじゃねーよっ!!」
「邪魔すんな!!」
悪態を付きつつもカラミティの攻撃に散開したMSに向かっていくクロトとシャニ。
「てめーらも邪魔なんだよっ!!」
長距離から撃った方が効率的なカラミティ。
オルガにとって、目標の前を飛ぶレイダーとフォビドゥンは邪魔以外の何者でもない。




「いくぜ!抹殺っ!!」
ハンマーを振り回すレイダーに、ブリッツは避けるのが精一杯だった。
「くっ…機動力が違いますね」
MA変形しつつ動くレイダーは非常に素早く、ミサイルもそう簡単には当たらない。
ニコルはミラージュコロイドを展開させた。
・・・ブリッツの姿が消えていく。
「消えた?!」
レーダーでも姿は確認できない。
その場に止まってクロトはにやりと笑った。
「でもさ、奇襲ってのはたいてい背後からだよな」
何もないところからミサイルが飛んでくる。
数発が当たってコクピットに衝撃が来るが、クロトはすかさずミサイルの来る方向へハンマーを投げる。
「…!しまったっ!!」
そのあまりに早い反応に、ニコルは避けきれなかった。



「くっそ、何なんだあのMS!」
ディアッカはフォビドゥン相手に大苦戦していた。
バスターの主力である二段レーザーが曲げられてしまう。
レールガンで応戦するもそれを避けて近づいてくる。
そうして振り下ろされた鎌を間一髪で避けるのが精一杯だった。

「うざーい!」
シャニは苛々と叫ぶ。
バスターもリフターユニットに乗っているので攻撃を避けられてしまうのだ。
・・・しかし苛々しているのはシャニだけではない。

バスターの放ったレーザーがフォビドゥンによって屈折される。
それが流れ弾となり、別の場所で交戦中のデュエルとカラミティを掠めていくのだ。
「おいディアッカっ!貴様どこを狙っているっ!!」
味方の攻撃に当たるほど屈辱的なことはない。
そんなイザークの文句にディアッカも言い返す。
「俺のせいじゃねーって何度も言ってるだろっ!!」
しかしこういった場合に妥協せざる負えなくなるのはディアッカだったりする。
今回もまた例の如く…
「撃ったのは貴様だろうがっ!!」
「……(言い返せねえ;)」

そして・・・
「シャニっ!てめえ邪魔すんじゃねーよっ!!」
「…知らない。そんなとこで戦ってるからだろ」
オルガとシャニの側もまた例に漏れず。








別の場所では紅と白のMSがぶつかっていた。
互いのビームソードが金切り声を上げる中、キラは交信スイッチをオンにする。
「久しぶりだね、アスラン」
「…っキラ?!」
アスランは驚愕する。
・・・何故キラが…未だ連合軍にいるのか。
キラは構わずに続ける。
「核の恐ろしさを一番よく知ってるプラントが核を使うなんてね」
「!!」
そうは言うものの、すでに彼はフリーダムが核エンジンを搭載していることを見抜いているだろう。
・・・それが諸刃の剣だという事も。
「安心してよ。核はフリーダム以外に使わせてないから」


・・・自分が聞きたいのはそんなことではない。
アスランは思わず叫んでいた。
「キラ!!何故お前が戦っている?!何故未だに軍にいるんだ!!」
以前、イージスに乗っていた頃に何度も戦った。
民間人でありながらストライクに乗らざる負えなくなった彼と。
しかしキラの返答は冷たいものだった。

「…あそこまで軍事機密に関わって…戦争に関わって…本当に解放してくれると思う?」

・・・最初は嫌でたまらなかった。
平和だったのに戦渦に巻き込まれ…一緒にいた友人たちを守るためと言って戦っていた。
仕方ないと、それでも必ず解放されるとあの頃は信じていた。
・・・けれど気づいた。
一度手を血に染めてしまうと、それが何回も続くと…何も感じなくなるという事に。
きっとここで君を…かつての親友を倒しても、きっとまた何も感じない。
もう君が傍にいるわけではないから。




・・・"やり残したこと"
昔の自分を振り切ってしまうこと。
そしてアスランは、"昔の自分"の中心とも言える存在。

キラはふっと微笑む。
「…見つけたんだ。君じゃない別の人を」




・・・どうやら紅いMSのパイロットとキラは知り合いらしい。
シャニはバスターの攻撃を避けつつそんなことを考えていた。
出撃前に"邪魔はしない"というようなことを言ったが、やはり何となく腹が立つ。
・・・その理由はよく分からないが。

バスターがレーザーを撃ってくる。
シャニはふと思いつき、フォビドゥンの機体の向きを少し変えて屈折させた。


ズシンッ!!


「うわっ?!」
屈折されたビームはフリーダムと交戦中のジャスティスに直撃。
そのため一瞬ジャスティスに隙が出来た。
「シャニ、ナイス♪」
キラはソードを振り下ろすが、そこはやはりザフトのエリート。
ソードはジャスティスを掠めただけで避けられてしまった。


コックピットへの直撃は免れたブリッツ。
「うわあっ!!」
しかしレイダーの一撃をもろに喰らい、その衝撃でリフターユニットから振り落とされた。
「ニコル?!ちっ、世話の焼ける…!!」
イザークはカラミティとの戦線を離脱し海上すれすれでブリッツを拾い上げる。
その間もレイダーとカラミティの猛攻を受け、さすがのイザークも分が悪すぎると判断した。
「おい!アスラン、ディアッカ!退くぞ!!分が悪すぎる!!」
それだけ言うとイザークはブリッツを連れてさっさと戦線を離脱する。
・・・この状態では反撃も出来ないのだ。
「退けって…この状態でかよ?!」
デュエルとブリッツが同時に離脱したために的の中心になってしまったバスター。
レールガンを連発して距離を取ってなんとか離脱する。
そこへジャスティスも加わり、あっという間にかなりの距離を取られてしまった。
「あっ、逃げた!!」
「結局落とし損ねたじゃねーか!!」
「…つまんなーい」
「そうだ、ドミニオンは?」
そう思い出したときに通信が入った。
『フリーダム、レイダー、フォビドゥン、カラミティ、帰艦しろ!基地の自爆装置が作動しているはずだ!』

それを聞いて文句を言う三人。
キラは仕方ないね、と彼らを説得した。
「それにそろそろ三機とも燃料切れじゃない?」
キラの言ったことに間違いはなかったので三機とも渋々帰艦し、キラも後に続く。

・・・そのずっと後方では大きな爆発が起こった。
基地全てを飲み込んでいく炎。





その炎の中を二つのナスカ級戦艦が離脱していった・・・






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面倒なので訂正しませんが、地上でミラコロは熱源で感知されるので意味ありません。
飛んでるならなおさら。