Sympathizer03... 目指す先は共に
ふ、と目を醒ますと、真っ暗な天井が目に入った。
それは本当に唐突な意識の浮上で、本来なら朝と言われる時間帯でも微睡みの中にいるはずだ。
ゆっくりと身を起こせば剥き出しになった肩が外気に触れ、思わずシーツを手繰る。
するとシーツがくんっ、と逆に引かれ、しまったと零した。
「…すまない。起こした」
「いや…どうした?」
刹那、と自分の名を呼ぶ声が、身体の内に染み通る。
伸ばされた手が襟足まで届いている黒髪を撫ぜ、合わせるように刹那は静かに目を伏せた。
(ひとりじゃ、ない)
4年という歳月は、きっと長かった。
コントロールを奪われた『ヴェーダ』。
崩壊した『Cerestial Being』。
亡くした仲間。
築かれた新たな世界。
ネーナを王留美へ預け『ラグナ』の存在を隠し、唯一のホットラインは弟のシンのみ。
それがつい先日までの刹那の立場だった。
この4年間、それ程までに己の世界を『ラグナ』とシンだけで完結させていた。
…聞けばシンでさえ、CBからすれば1年前まで行方不明だったという。
瓦解、崩壊、消滅。
あらゆる滅びの言葉が、4年前のCBに相応しかったろう。
「それをあんたは、再び纏め上げたのか」
エクシアを駆ったあの日の自分が重傷であったように、彼もまた同じであったはずだ。
自分が寝ていた隣を見下ろせば、類い稀な美貌に笑みが刻まれる。
「信じてみたんだ。君の半身である、『ラグナ』を」
それは間違っていなかったと、ティエリアは1年前にシンを見つけて強く感じた。
刹那・F・セイエイは、世界のどこかで生きているのだと。
身を起こしたティエリアは、刹那の目元にそっと口づけた。
「もしも君の身に何かあれば、『ラグナ』は必ず俺にコンタクトを取る」
ガンダムを通してか、ネーナ・トリニティを通してか。
いずれにせよ、手足を持たぬただの機械でしかない『ラグナ』は、物理的な救援を行えない。
誰か分かる人間に、助けを求めるしか。
たとえ大嫌いな存在であっても、誰よりも理解出来るのがティエリアであると『ラグナ』は知っている。
「『ヴェーダ』はここに居ない。だがそれは、立ち止まる理由にはならない。
何事も最悪を想定すれば、それ以上悪くならないと学んだ」
「…そう、だな」
「俺に諦めないことを教えたのは、刹那だ。
君は一度たりとも諦めなかった。…"ロックオン"の時でさえ」
「……」
「世界が俺たちの求める方向になったなら、兵器を破壊すれば良い。
けれどそれは、少なくとも"今"ではない」
「…ああ」
言うべきか、言わざるべきか。
「ティエリア」
「何だ?」
4年間続けてきた葛藤を、呑み込んだ。
「…『ラグナ』を、使えないか?ここで」
ティエリアが目を見開く。
刹那は少しずつ言葉を選び、続けた。
「『ヴェーダ』ほど綿密なプランは持たないが、能力は同等だろう?
それに今のままでは、あんたの負担が大き過ぎる」
ガンダムやプトレマイオスの再建造、組織の再編。
エージェントたちの力は大きいが、その彼らを再び協力させたのもティエリアだ。
実質的に言えば、指導者の立場。
彼がパイロットとして先陣を切る以上、それではどこかで歪みが生じてくる。
そして『ラグナ』の力を眠らせておくという選択肢は、刹那にはない。
使える力があるならば、使わなければ意味がないと。
しかし、ティエリアの表情には影が差した。
「…君に、俺と同じ思いはさせたくない」
あの、虚無に落とし込まれたような喪失感は。
シンの手を離した過去の瞬間を思い出し、刹那はひやりと背筋が凍る。
けれど首を横に振った。
「…大丈夫だ」
5年前までは、独りだった。
でも今は違う。
「『ラグナ』のシステムは『ヴェーダ』のコピーだが、"同じ"じゃない。
本体の場所は俺しか知らないし、『ラグナ』は『ヴェーダ』に関わる人間を嫌う」
4年前は誰も『ヴェーダ』を知らなかったから、守れなかった。
『ヴェーダ』が何なのか、ティエリアしか知らなかった。
けれど今回は、少なくとも『ラグナ』を知っているのは刹那だけではない。
ティエリアは己が為すであろうこれからを見つめる。
(…そうだな。確かに俺は、『ラグナ』を守ろうとするだろう)
刹那の為に。
「だがあの『ラグナ』が、俺に協力するとは思えないな」
「知ってる。ティエリアと『ラグナ』を会わせたら、かなり面倒なことになる」
「…よく分かってるじゃないか」
「だから、直接関わるのがティエリアじゃなければ良いんだ。
戦術を出すスメラギでも、面識のあるシンでも良い」
ティエリアはふと笑みを浮かべた。
「お前は、変わったな」
きっとそれは、自分も言われることだろう。
こうして共に居る今、
ー 互いに頼ることが出来る ー
08.10.12
角砂糖入りコーヒーみたいで砂吐きそうです(当サイト比)
書いてて、てぃえの一人称「俺」に違和感。なぜ…。
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