Sympathizer10... 世にも危険な情報屋
メメントモリ第2波。
その情報はすぐに入ってきた。
破壊された(消滅、の方が正しいか)のは、またも中東の中心国家。
プツン、と隣の端末の電源が落ち、ああやっぱり、と思った。
「どこ行くの?」
いちおうは聞いておく。
まあ、腑が煮えくり返っているのは自分も同じだけれど。
返答は案の定、
「…1発殴らねえと気が済まない」
「じゃあ4発でお願い。カナードと、僕と、ラクスとフレイの分」
シンはたぶん、周りが殴り込みかけてくれるから大丈夫。
にこりと良い笑顔で、キラは実の兄を見送った。
ああけれど、これで3日は彼の…カナード…の顔を見られない。
「イノベイタ―だかなんだか知らないけど、ちょっと勝手が過ぎるよね」
まったく、大口顧客が居なくなってしまったではないか。
彼の呟きを聞くのは、"彼ら"の手足である機械群。
「情報を制する者は世界を制する。これは僕らに喧嘩を吹っ掛けた、そのお返しだ」
口の端を吊り上げ、キラは端末に手を伸ばす。
その端末に表示されているのは、大型衛星兵器の設計図。
「頭上の脅威は、消してもらわないと」
Send; と表示された行き先には、たった数文字の宛名。
『 R A G N A 』
それから数分後、CBの母艦を取り逃したというアロウズの情報が入った。
* * *
パシン!と乾いた音が広い部屋に響いた。
「黙っていろ。薄汚い小娘が」
呆気に取られたのは何も、頬を張られた留美だけではない。
リジェネは思わず口元が緩む。
(わお、リボンズがキレた)
なんて面白い展開だろうか。
何となく雇われ者のアリー・アル・サーシェスを見てみると、こちらを見た奴が唇を歪ませて肩を竦めてみせた。
(これだから、この男は面白い)
このサーシェスという傭兵を、リジェネは意外と気に入っていた。
さて、この状況からリボンズはどうするのか。
CBのツインドライヴは、あらゆる意味で規格外の存在だ。
そこでリジェネの思考は中断される。
《リボンズ、リジェネ、侵入者だよ!》
ヒリングの"声"が飛んできた。
呼ばれた2人はハッと顔を上げ、この部屋に繋がる両開きの扉を注視する。
程なくして、カチリと取っ手が動く。
警戒するでもなく堂々と入ってきたのは、この屋敷の者ではない。
長い黒髪に黒い服の、青年だった。
その青年を見たアリーが、珍しく驚きの声を上げる。
「お前、"月光"じゃねーか」
気付いた相手が笑った。
「へぇ、しぶとく生きてたのか。サーシェス」
「…さすが兄弟、言うことが同じだねえ。で、なんでまた?」
"月光"が答える前に、リジェネが口を開く。
「凄いね。ここまで鮮やかにセキュリティを抜けたのは、貴方が初めてだよ」
不躾であったことは不問にするよ、どんな手品を使ったの?
リジェネの言動は、まさしく無邪気の一言だ。
「…リジェネ。君も黙れ」
苛立ちの籠ったリボンズの言葉が飛ぶ。
「手品じゃねーよ。機械を制する者は情報を制する、それだけだ」
"月光"はリジェネに答えてやってから、リボンズを見た。
リボンズはアリーの言葉から、この侵入者が誰かを分析する。
「"月光"…あの2人組の傭兵かい?無礼な振る舞いはこの際、目を瞑ろう。
いったい何の用件なのか、話だけでも聞いておこうか」
「ハッ、ざけんな。人の大口顧客を3件も消しておいて」
おやおや、とアリーは相変わらずの"月光"の様子を見て笑った。
(傍若無人っつーか、弟共々変わんねーなあ…)
彼…いや"彼ら"は、ただの傭兵ではない。
何なのかと問われても知らないので答えられないが、ただの傭兵ではここまで辿り着けない。
この、世界の糸を引こうとする者たちの拠点たる屋敷には。
「…中東の国かい?ユニオンの方が、ずっと羽振りは良いと思うけど」
余裕を取り戻してきたらしいリボンズは、口元に笑みを浮かべる。
対して"月光"は目を細めた。
「当たり前だろう―が。だが、お前らのせいで仕事が回って来ない」
「僕らのせい、とは?」
彼の次の台詞は、リジェネでさえも息を呑んだ。
「クク…情報を掴んでるのは、そこの王留美だけじゃないらしいぜ?
アロウズを創設した"イノベイター"」
自作自演はお手の物
ー 情報屋を嘗めるな、神気取りが ー
08.12.21
これで彼らのターンは一応終わり。趣味に走り過ぎた(苦笑)
そろそろシンと刹那の会話を書きたい。
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