Sympathizer11... 朧げに見える『何か』

指定されたステーションまで赴けば、すでに呼び出し主はそこに居た。
もっとも、そうでなければ困る。
近づくことを戸惑うのは、自分を育てた情報屋の人物と似たような思いを抱かなければならないため。

(だから、なんでコイツは…!)

"彼ら"も容姿で人の目を惹く存在だった。
1人でも十分目立つのに大抵が2人で行動していたものだから、影響は計り知れない。
慣れているので気にはしないが、それでも大勢の視線がちくちくと刺さる。

「だから、なんでアンタはそんなに目立つわけ?」

不審感も露に問えば、軽く肩を竦められた。
「うーん…そればっかりは、私のせいじゃないから何とも言えないよ」
君も目立ってるじゃない、と言って、リジェネはシンの頭をくしゃりと撫ぜた。
迷惑そうな顔をされたが、シンは何も言わない。

彼が触れても怒らないのだと気付いたのは、ごく最近だ。
シン・アスカという人間は、元来が人懐っこい性格らしい。
あとは、彼を育てた例の情報屋の教育か。
リジェネはステーションの外、道路の向こうを指差した。
「あの店に入らない?今の時間帯、お茶のメニューが美味しいんだって」
「…って、何でアンタがそんなこと知ってんの?」
「さっき聞いたから」
「誰に」
「通りすがりの女の子たち」
「……」
とりあえず、シンはため息だけを吐いた。


リジェネの情報は確かで、シンはメニューに珍しいフォンダンショコラを見つけて目を輝かせる。
一方のリジェネは、出された紅茶がお気に召したらしく上機嫌そうだった。
「…アンタが気に入るなんて、よっぽどなんだな」
頼んだケーキを待ちながら、シンは珍しいと目を丸くした。
しかし、すぐに本題を思い出す。

「ってゆーか、何でアンタがオレのプライベートアドレスを知ってるんだ」

非通知でケータイに着信があり、出てみれば目の前の男からだった。
普通であればストーカーかと腹を立てるところだ。
だが情報屋という職業であるが故に、シンはあまり腹を立てられない。
ティーカップをソーサーへ戻して、リジェネは笑った。

「君こそ珍しいよね。私の誘いに乗るなんて」

CBの人間として活動しているシンにとって、イノベイターであるリジェネは紛うことなく"敵"であるはずだ。
「…確かに、刹那に知れたらメチャクチャ怒られそうだけど」
でも、と彼は続けた。
「オレは半分が元のままだし、それにティエリアの例もある」
シンは未だに例の情報屋と繋がっており、家族のような繋がりが切れることはこの先もないだろう。
呆れたような声が返った。

「私が彼のように裏切るって?」

有り得ない、という響きを持って問われる。
「…そこまでは言ってない」
「でも、僅かでもそれに期待を込めてる」
「否定は、しないけど」
会話が途切れたそこへ、ケーキが運ばれてきた。
しかしシンの前だけでなくリジェネの前にも別のケーキの皿が置かれ、首を傾げる。
「私は頼んでないけど…」
うん、とシンは頷いた。
「間違ってないよ。さっきオレが頼んだから」
「は?」
リジェネの前に置かれたのは、チョコレートワッフルに生クリームが添えられ、ミントが香りを運ぶ菓子。
首を傾げたままのリジェネへフォークを手渡し、シンは何でもないように告げた。

「オレがアンタに会ったのは、まだ両手で足りる数だけど。
でもアンタは甘いものが好きで、甘すぎるのも嫌いで、チョコレート系の菓子をよく見てる。
好きな紅茶の銘柄はアールグレイ。AEUの、特にイギリスに本社を置くメーカーがお気に入り。
ティーカップもやっぱり、イギリス製のものが好き。
ファッションはフランス系かな。あの国に本店のある、誰もが知ってるブランドを1つは身につけてる」

すらすらとシンの口から語られた事実に、リジェネの目が丸くなる。
これもまた珍しいものを見た、と気分良くシンは締め括った。

「それにアンタは、オレのことを他の奴らに言ってない。
だからオレも刹那たちには言ってない。俺の今の判断基準は、そこだ」

フォークをショコラに入れれば、さっくりと綺麗に切れ目が入る。
切り分けたそれをぱくりと口にし、シンは素直に美味しさを賛美した。
「で、オレがなぜもう1つケーキを頼んだかというと」

いつもアンタに先を越されて過去3回、驕られたみたいで気分が良くないから。

最後まで聞けば、思わず吹き出した。
「ふふっ、相変わらず興味が尽きないよ、君は」
じゃあ遠慮なく、ご馳走になろうかな。
リジェネは生クリーム添えのチョコレートワッフルにフォークを入れる。
ショコラを食べながらも、シンは彼の嬉々としたその様子をちらりと盗み見た。

(…本当は、)

通話口の向こうの声が、いつもと違う調子に聞こえた気がしたのだ。
そういう類いを教え込まれて育ったから、シンは先のように相手を観察する努力を怠らない。
生クリームにちょこんと乗せられていたミントを避けて、リジェネはシンへ尋ねた。
「君はミントとかって食べる?」
「…気が向いたら?」
「へえ、食べれるんだ。私は無理だなあ」
そのまま生クリームを一口食べて、ちょうど良い甘さに満足する。

「…君がそうして、情報屋と繋がり続けてるように」
「?」
「私たちにも繋がりがある。創られた者として、備えられた能力で」
「脳量子波?」
「そう。でも私は他の仲間と違って、"生まれ"が違う」

どういう意味なのか、よく分からない。
戸惑うシンに、リジェネは諦観したような笑みを向けた。

「結構大変なんだよね、1人だけ違うっていうのは。だから…」

そろそろ疲れてきたのかも?
そんなことを冗談めかして呟いた彼は、どこを見ているのか。
リジェネの今の姿を見れば、刹那は『ティエリアに似ている』と言ったかもしれない。

なんとなく、シンはそんなことを思った。

霞で出来たお菓子の家


ー 本当に敵だろうか? ー



09.2.1

いつになっても改善されない、私の悪い癖ですね。
ティエ刹+ラグナが主役なのに、種+D組が主役張ってるっていう(苦笑)

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