Sympathizer12... 世界をカードに例える話

ひらり、と表を向けてテーブルへ落とされたトランプ。
まずは1週目。

「じゃあ私から。ハートのジャック」
「…ネーナ・トリニティ?」
「Yes. 元ガンダム・スローネ、末っ子。刹那・F・セイエイと繋がりがある。
もっとも、私は詳しく知らないけど」

「次はわたくしですわね。クローバーのクイーン」
「え、クイーン?」
「それは…マリナ・イスマイールか?」
「そうですわ。シンのおかげですけれど。
あの方の作られた歌を、今わたくしが歌っていますから」

「僕はまず、これかな。ダイヤのキング」
「キング…?まさか連邦大統領とか言うんじゃないでしょうね?」
「惜しい。ホーマン・カタギリ司令だよ」
「なるほど」

「俺はコイツだ。スペードのジャック」
「アリー・アル・サーシェス」
「…コイツは嫌いだ」
「うん、そうだろうね。シンは?」

「オレは…、CB抜きで良い?」
「良いよ」
「じゃあ、コレ。クローバーのキング」
「CBじゃないってことは、カタロンだね。クラウス・グラード?」
「そう」
「今はあんまり期待出来ないけど…」
「ですが、こちらはクイーンとセットですわ」
「あ、そうか」

2週目は本命ばかりだ。
世界有数の資産家、その1人娘であるフレイ・アルスターは笑みを浮かべてカードを切った。

「私の持ち札は、ハートのクイーンとダイヤのクイーン」
「…ハートは王留美だよね」
「そうよ」

ダイヤのクイーンが誰なのか、キラは考え込んだ。
その隣でカナードが思い付く。

「ルイス・ハレヴィ」

ぱちん、とフレイは指を鳴らした。
「正解♪さすがだわ」
彼女はお茶請けに置かれていたクッキーを手に取り、ぱくりと口に入れた。
「ハレヴィ家は、AEUでも有数の資産家だったわ。
例のガンダム襲撃事件で、彼女以外は親類も遺らなかったけど」
「ルイス…?」
シンが首を傾げる。
「どうかしましたの?」
「あ、うん。名前に聞き覚えが…、あ!沙慈・クロスロードだ!」
「誰だっけ?」
「刹那のお隣さん。今はCBに居る」
「ふぅん。で、なんでそのルイスって子がクイーンなの?」
キラの問いに、フレイは右手にハートのクイーン、左手にダイヤのクイーンを見せるように手にした。

「王留美はCB最大のパトロン。同じく、ルイス・ハレヴィはアロウズ最大のパトロン」

ハレヴィ家の膨大な遺産のすべてを、アロウズへ出資したらしいわ。
ちなみに本人も、アロウズの特攻隊に居る。
「…マジで?」
目を丸くして、シンは彼女の両手にあるカードを見比べた。
カードをテーブルの中心へ滑らせ、フレイは自分の右隣を見る。
「次はラクスよ」
指名された彼女は頷き、2枚のカードを表へ返した。

「わたくしの持ち札は、スペードのエースとスペードのキング」

スペードのエースは、カナードと共通ですわ。
世界の歌姫ラクス・クラインは、自分の右隣に座る彼へにこりと微笑み、2枚のカードをテーブルへ置いた。
キラがすぐさま反応する。

「カナードと共通ってことは、リボンズ・アルマーク?」

正解ですわ、と彼女は笑みを深めた。
「意図的にCBの方々を外しておりますから、キングは連邦大統領になりますわね」
「この間も、会合に招待されたんだっけ?」
「ええ。父の付き添いという形でしたけれど」
ユニオン議会の議員である彼女の父も、世界的に名の通った政治家だ。
ラクスは隣に座るカナードへ微笑みかけた。
「次はカナードですわ」
"月光"の異名を持つ傭兵、カナード・パルスは肩を竦める。

「俺の手札の残りは、そのスペードのエースだけだ」

確かに、彼の手元にはカードが1枚も無い。
「敢えて言うなら、CBの過去の情報だな」
「…まあ、カナードは直接交渉に向いてないからね」
そういうのは僕の役目だ。
向かいに座る実弟、"幻影"の異名を持つキラ・ヤマトは、自分の手札を捲ってみせた。

「これはダイヤのジャック。あ、スペードのジャックは僕もカナードと共通」

キラの左隣に座るシンが問い返す。
「スペードのジャックって、アロウズのことか?」
「あ、そうなるか。でもこれは、正確に言うとカティ・マネキン」
「誰?」
シンの問いに答えたのは、彼の左に座るカナードだ。
「アロウズの司令官だ。技術顧問のビリー・カタギリ、それにCBのスメラギ・李・ノリエガとは同じ大学、軍部だった」
カナードの答えに補足するように、キラは続ける。
「カティ・マネキンとスメラギ・李・ノリエガは、戦術予報士として最高の腕を持ったライバルでもある」
そして、最後はシンだよ、と彼は締め括った。
シンは手元にある、2枚のカードを表に向ける。

「オレはこれ。やっぱり、CB抜きっていうのは難しいから」

彼のカードは、クローバーのエースとスペードのクイーン。
一度見せたそのカードに、シンは別のカードを重ねる。
「このエースは、必ずジョーカーとセットになるけど」
「…だろうね」
だってそれは、と言葉を切ったキラに、彼の右に座るフレイが頷いた。
「そうよね。それはシンの兄弟、刹那・F・セイエイでしょう?」
シンはこくりと頷いた。
「新生CBはティエリア・アーデが再建して、刹那が引っ張ってる。
本体の場所が掴めない『ラグナ』は、イノベイターにとっても脅威のはずだ」
そう、『ラグナ』の場所は、世界最高と言われるこの情報屋"GARMR&D"にも掴めていない。
ところで、とラクスがもう1枚を指差した。

「そちらのクイーンは、どなたですの?」

問われたシンの赤い眼が、戸惑いに揺れる。
「シン?」
伝えるべきか否か、短くはない葛藤があった。
ややあって、彼はゆっくりと口を開く。
「本当は、ここで使うべきカードじゃないかもしれない」
けれど、気になるのだ。
"彼"の言葉が本当だとするならば。

「これはイノベイターの1人、リジェネ・レジェッタ」

ティエリアにそっくりな顔をしてるんだけど、と続ければ、カナードが何かを思い出した。
「…アイツか」
イノベイターの拠点である屋敷へ、単身乗り込んだときの出来事だ。
しかしシンの言葉はそこで終わらない。
「確率は、五分なんだけど」
クローバーのエースとは違う。
スペードのクイーンが、もう1枚のジョーカーと完璧に入れ替わった。
「どういうこと…?」
他の面々の視線を受けて、シンは最後の言葉を吐き出す。

「イノベイターは、一枚岩じゃないのかもしれない」

それは勘か希望か


ー 切り札?それとも捨て札? ー



09.2.8

リジェシンなんてどんだけ需要無いんだろうか(自問自答)
この話の前に、あるべき話が2本くらい抜けてる気がします…。

前の話へ戻る←/→閉じる