04.  

の飛んだ軌跡に、煌めいた何か。
(龍…?)
屋上の入口近くに着地したは、涼しげな笑みを浮かべていた。
「こんな何もない場所で飛ぶの、久しぶりだな。ところで…」
笑みが苦笑に変わる。

「そっちの名前、教えてもらえる?」

それぞれが名乗ったところで解道はコホンと咳払いし、提案する。
「さて、…君。とりあえず、君には当学園の制服をお貸ししましょう。
少なくともその格好は、昼間のものではないのでしょう?」
はにぃ、と口角を上げた。
「まあね」
彼はゴーグルを外し、右腕に巻きつける。
その視線がカイトへ向いた。
「ねえ、君。それ貸してくれない?」
「え?」
それ、と指差されたのは、カイトの目線よりもやや上。
思い当たり、聞き返す。
「サングラス?」
「そう」
別にいいけど、と外しながら、カイトは口元を尖らせる。

「てかさ、"君"とか呼ぶくらいなら名前で呼べよな」

至極、真っ当な意見だった。
だがは、瞬きするだけの時間を返答に要した。
「…そうか。ここにはA.T(エア・トレック)がないんだっけ」
安心したような、けれど酷く寂しそうな呟きが、落ちて。
再びカイトと視線を合わせたは、言葉を替えた。

「じゃあ、"カイト"。サングラス貸してくれる?」

改めて頼まれ、断る理由は特にない。
「どーぞ」
カイトはサングラスを手渡してから、今更ながらに気づく。
「眼、隠しちまうのか? 勿体ねえ」
綺麗なのに、と続けられ、は曖昧な笑みのみを返した。



√学園は研究施設も兼ねており、単独での機能維持が可能となっている。
それは学園を利用する人間に対する設備も同じことで。
にサイズの合いそうな制服を手渡し解道が案内した先は、職員たちも利用する本館1階の宿泊施設だった。
「今日明日のところは、ここを使ってください」
「それはどうも」
カードキーを手渡されたは、中へと消える。
彼が出てくるのを待つ間に、誰かの腹の虫が鳴いた。
「…もう昼か」
空腹を訴えた胃に、カイトは携帯電話の時計を見る。
思っていた以上に時間が経っているのは、驚愕続きで脳が時間を認識出来ていないためだろう。
「確か食堂は、今の時間帯は早番の職員しか居ないんじゃないかな?」
ソウジの言葉に、解道が首肯する。
「そうですね。人も少ないですから、君を交えて早めの昼としましょうか」
「へぇ、もう昼?」
割り込んできた声に顔を上げれば、制服に着替えたが出てきた。
ノノハがほえ〜、とよく分からない声を上げる。
「やっぱりカッコイイ…」
ていうか、綺麗?
なぜかノノハがこちらを向き、カイトは同意を示すべきか迷った。
自然と下がった視線の先には、銀色のインラインスケート。
「A.Tはそのままなんだな」
「まあ、ね」
の目が、ふっと遠くなる。

「今の俺には、これしか確実なものが無いから」

言葉に含まれた本当の意味を、カイトはまだ推し量ることが出来なかった。



食堂の人口密度は低いものであったが、視線は集まってくる。
1人サングラスを掛けている生徒に目を留めた人間は、誰もが彼の履いているA.Tに首を傾げていた。
さんって、歳いくつなんですか?」
注文を済ませ受け取り口で待っていたノノハは、同じく待ち状態のへ問いかける。
「俺? たぶん18か19」
「えっ!」
会話を漏れ聞いたソウジが眉尻を下げた。
「わお、僕よりも先輩だったね」
大学生? という問いには、まあそんなもの、とやはり曖昧に。

「まさかカイトくんも称号貰ってたとは、驚いたねえ」
「まあね」
「ギャモン君と同じで良い食べっぷりだから、作り甲斐があるよ」
「ははっ、サンキュ」

会計の調理師とカイトの会話に、はノノハを振り返った。
「称号って何?」
ノノハは上手い答え方は無いだろうかと考える。
「学園長が認めた"天才"に与えられる、特典?」
残念ながら、?マーク付きのいつもの回答になってしまった。
「私だけの判断で選んでいるわけではないですよ。
ちなみに現在、中等部と高等部を含めた生徒約1,500名の内、5名が称号を持っています」
一足先に食事を受け取った解道は階段を登り、屋内テラススペースへと向かう。
屋内のテラススペースは1つしかないので、特等のグループ席。
邪魔も入らない。

(称号ね…)
300分の1となると、結構な突出さが必要だろう。
単純に、好奇心が湧いた。
は丼2つに麺類2皿を平らげようとしているカイトに、よく食べるなあと思いつつ問うた。
「カイトは何が得意で称号貰ったんだ?」
食べてる最中(さなか)の彼に代わり、すでに食べ終わったノノハが答える。
「パズルですよ。カイト、パズル解くのはすっごい得意なんです」
「は、って何だよ。パズル"は"って」
ごちそうさま、と手を合わせたカイトが、彼女の言葉に噛み付く。
「ふぅん、パズル…」
君は得意かい? パズル」
パズル部部長だと明かしたソウジでも、足元にさえ及ばないレベル。
それがカイトが称号持ちである理由だとか。
「パズルとか、滅多にやらないしなあ…」
ああでも、と思い出す。

「ルービック・キューブは得意かも。早くはないけど6面揃えられるから」

いやそれは…と、2名から異議が上がった。
「1面以上揃えられるだけで、十分凄いですよ…」
私は1面でもほんと大変なのに、とノノハ。
「や〜、6面はレベル高いなあ」
うちの部でも2,3人しか出来る人はいないよ、とソウジ。
「3×3だよな。何分?」
カイトの端的な返しには、首を捻った。
「たぶん…20分〜30分」
随分前のことだから、今はどうか分からないけど。
だがノノハとソウジに、注釈は無意味だった。
「十分どころじゃないです…」
「それは凄い! ぜひパズル部に入部してほしいな」
はカイトへ視線を戻す。
「カイトだったら?」
中身の残っているジュースへ手を伸ばし、カイトは事も無げに言った。
「3分以内」
スピードキューブじゃねえから、と言われたが、さすがに驚いた。
ノノハがさらに別のパズルの話を続ける。
「パズル部の副部長が1日掛かったナンプレ、カイトは1分で解いちゃったんですよ!」
「…うわ、神がかってる」
どうやら驚きも無意味なようだ。
ついでに、ルービック・キューブで思い出した。
「暴風族(ストーム・ライダー)の一定レベル以上だと、ルービック・キューブ得意なヤツが多いかも」
「なんで?」
は空いたグラスを並べ、建築物に見立てた。
「A.Tは、踏み込みで推進力を得なければ飛べない。建物の内外、どちらも構造を瞬時に捉えられるヤツが有利」
どこを足場とすればどう飛べるか。
一瞬の判断が、即座に命取りに為りかねないためだ。
カイトはがしがしと頭を掻く。
「聞けば聞くほど、一般人が混じれそうなスリルじゃないよなあ…」
なんつーか、怖い世界?
「そうだな」
客観的な視点であれば、そうなるだろう。
しかしにとって、それは日常だった。

「ほんと、ここどこだろ…」

天井を仰いだ彼に、誰も掛けられる言葉は持ち得ない。
「そのことですが…」
口を開いた解道に、誰もの意識が向く。
君がここに居る理由として、2つほど、説明できそうなものがあります」
あくまで仮説です、と。
「それは?」
ファンタジーな話ではありますが、と前置きされた事柄は。

「"パラレルワールド"と、"神のパズル"です」
Puzzle of puzzle


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11.10.31

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