05.
ダン! とテーブルが叩かれた。
「ちょっと待てよ! なんでアイツらのパズルが関係あんだよ?!」
突然に険しい表情となったカイトに、は目を丸くする。
「落ち着きなさい、カイト君。あくまで仮定であると前置きしたでしょう」
「けど!」
「まあまあ、聞いてみないことには何も分からないよ」
解道に続いてやんわりと微笑んだソウジに、カイトは渋々と聞く体制へ戻った。
ノノハが首を傾げる。
「パラレルワールドって?」
カイトは氷だけになったグラスをカラカラと鳴らし、答えた。
「並行世界。オレたちが生きてるこの世界と、違う世界が別に存在してるって考えのこと」
「小説とかに出てくる?」
「そう。それ」
で? と、眇めた目で続きを問う。
解道は頷き、途切れた話を再開する。
「君の世界には、A.Tがある。けれど我々の世界には存在しない。
何より君は、"何もない場所から突然落ちてきた"。
パラレルワールドの住人である可能性は、証拠はありませんが否定の証拠もありません」
確かにな、とが呟く。
「寧ろ、その説明じゃないと説明出来ない気がする」
うーんと唸ったカイトもまた、否定する要素を持たない。
「じゃあ、"神のパズル"は?」
口を尖らせ聞いてみれば、解道は肩を竦め一言。
「時期的に、偶然とは思えない。…それだけです」
それだけかよ? というツッコミにも、やはり肩を竦めた。
「偶然と思えない根拠は、いちおうありますよ」
「…どんな?」
コーヒーで喉を潤し、解道は徐に口を開く。
「『神のパズル』へ至るには、『賢者のパズル』を解かなければならない」
そこまでは良いですか? と問われ、カイトとノノハは頷いた。
「POGのギヴァーと、彼らに挑むソルヴァー。その戦いは、遥か昔から続いてきたと云います。
ですが、その長い歴史の中でただの一度も、『神のパズル』は解放されていない」
いつだったか、聞いたような気がする話だ。
だが、解道の話はそこで終わらなかった。
「『神のパズル』へ挑む資格を持つ者さえ、一度も現れていない」
え、と思わず相好を崩した。
「…そうなのか?」
そうですよ、と首肯し、解道はカイトの左腕を指差す。
正確には、左腕に嵌った腕輪を。
「"オルペウスの腕輪"との契約。それが第一の条件でもあります」
「はあ?!」
冗談じゃない! と続けようとした彼を、片手を上げることで制した。
「落ち着いてください。あくまで仮定ですよ」
仮定であることを強調する解道に、ノノハは考えこむ。
「もしかして、さんも『神のパズル』に関係あるってことですか?」
頷きは返らない。
「腕輪の契約者が生まれたからこそ、POGは正面からカイト君へ挑んでくる。
『賢者のパズル』を解くことで、『神のパズル』の開放が近づく。
挑める者が現れたからこそ、『神のパズル』が動き出したとも言える」
それってつまり、と濁したノノハの後を、カイトが継いだ。
「『神のパズル』の開放に、が関係あるかもってことか?」
信じられないが、やはり否定の要素も見当たらない。
彼らの会話が沈黙で途切れ、はようやく口を挟む機会を得た。
「…納得してるところを悪いけど」
ん? と視線を上げたカイトへ、苦笑する。
「全っ然意味が分からないから、説明してくれねえ?」
話し込んで、いつの間にやらお昼時真っ只中。
食器を下げに階下へ降りれば、一斉に集まった視線にそわそわした。
「なんか、すっっっごい視線感じるんですケド」
「ああ? んなの気にすんなよ」
どうせノノハじゃないんだし、と言われ、納得しつつも落ち着かない。
「カイトは気になんないの?」
「…"向こう"に居たとき、1人だけ東洋人だったからな」
「あ、そっかぁ…」
視線の向き先は、カイトとノノハの後ろ。
解道に学園についての説明を受けている、だ。
サングラスを掛けていても、彼の整った容姿を隠すには足りなすぎる。
その上、足元はA.T(エア・トレック)だ。
屋外スポーツ、それも人の集まる場所では禁止される、遊び道具。
知らない者にはインラインスケートに映るそれを、学園長が容認しているのだ。
「じ、軸川先輩!」
通路側に座っていた少女が、通りがかったソウジへ声を投げた。
パズル部部員の水谷アイリだ。
「やあ、アイリ君。何かな?」
「何かなって…聞くことなんて1つですよ! あの方、誰ですか?!」
モデルさんですか? もしかして撮影地になったんですか?!
矢継ぎ早に繰り出された質問に、ソウジは苦笑しか返せない。
「モデルではないし、撮影地になったって話も聞かないなあ…」
しかし、上手い説明も思いつかない。
「部長、もしかしてあの人って…」
アイリの隣で、パズル部副部長の武田ナオキが眼鏡を押し上げた。
「もしや、巨大迷路のときに落ちてきた人では…?」
答えず笑みを浮かべることで、回答ということにした。
…アイリたちのざわめきは、波のように周囲へと広がる。
目を見開いた彼らへ手を振り、ソウジは食堂を出た。
(明日には、学園中がこの話題を知ってるんだろうなあ…)
♪〜♪〜
「!」
不意の着信音の主は、カイト。
彼がポケットから取り出したものは、携帯電話ではなく。
「ゲーム機?」
が尋ねれば、ノノハが首を横へ振った。
「ゲーム機なのかなあ? これ、POGのパズルが送られてくるんです」
「ふぅん?」
"招待状"と書かれた文字が浮かび、間を置かず地図が表示される。
「…また『賢者のパズル』かよ」
忌々しげに呟いたカイトに、は不思議に思う。
(パズルが好きなら、喜びそうなのに)
食堂で聞いた説明の中で、彼がPOGと呼ばれる組織に怒(いか)る理由は聞けなかった。
「ちょうど良い。君も、カイト君と一緒に行ってみてはどうですか?」
『賢者のパズル』が、どのようなものなのか。
カイトは勢い良く解道を振り返る。
「なっ、ふざけんな! ただでさえ危険なパズルなのに!」
(危険?)
どういう意味かと考えたの目の前で、カイトの手からひょいとゲーム機が奪い去られた。
「このパズルは俺様が解くモンだ。てめぇは引っ込んでな!」
カイトと同じく私服の、目付きの悪い少年だった。
「あっ、おい!」
取り返そうとしたカイトの手を、同じようににひょいと避ける。
「んじゃーな!」
ゲーム機を奪い去った少年は、地図を確認するなり学園の外へと駆けて行った。
「ちょっ、待てよギャモン!!」
静止も虚しく、彼の姿はすぐに見えなくなる。
「…変わった名前だな」
自分を棚上げしているに、ソウジはクスリと笑みを零す。
「彼は逆之上ギャモン君。カイト君と同学年で、"ガリレオ"の称号を持っているよ」
「へえ…」
彼も何か、特別秀でたものを持っているのだろう。
「カイト、どうする? 地図は見たから、行けるよ?」
「……」
「ほっとけないんでしょ? 危険なパズル」
額を抑えたカイトに、は掛けていたサングラスを差し出した。
「? ?」
手渡したサングラスの代わりが出来るよう、腕に巻き付けていたゴーグルを着用した。
風の強い場所を飛ぶわけではなさそうなので、額の上に。
「行くんだろ? 連れてってよ、俺も」
「…けど」
渋るカイトに、笑いかけた。
「安心しろよ。パズルは無理だから任せるし、自分の身なら守れるよ」
数秒を見つめたカイトは、決心がついたようだ。
「ノノハ、地図の場所は?」
「まっかせて! 5限目までには戻るわよ!」
Parallel Worlds? that's incredible.
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11.11.6
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