02.
パズル部へ顔を出したカイトとノノハを真っ先に見つけたのは、アイリだった。
「あっ、カイト先輩!」
「よお。軸川先輩いねえ?」
出迎えに出て、アイリは部室を見回す。
「今日はまだ来てないんですよー」
「そか。ちょっと待たせてもらっても良いか?」
どこ行っても行き違いになる気がする、とカイトは呟き、アイリは快く承諾した。
「どうぞどうぞ! ノノハ先輩も!」
「いつもごめんね。ありがと、アイリちゃん」
入口横にあるソファとテーブルのセットは、部員たちが出来上がったパズルをレビューするスペースだ。
そちらへ向かおうとしたカイトへ近づく人影が、ひとつ。
「やあ、大門カイト君。部長を待つ間、僕の新作ナンプレに挑戦しないかい?」
副部長の武田ナオキだ。
手には正方形の紙が、1枚。
「…別に良いけど」
このやり取りもいつものことだ。
だがその会話を、軽いノック音が遮る。
「ねえ。軸川ソウジって人、ここに居ない?」
開けっ放しの部室入り口へ視線を向けた誰もが、息を止めた。
視線の集まる音がするなら、それはきっと風の音に似ている。
サングラスに隠されてなお際立つ、その容姿。
レザージャケットにジーンズというラフな格好だが、やけに視線を奪われる。
例えるならば。
(雑誌に載ってるみたいな…)
静まり返った部屋に、当人が痺れを切らした。
「なあ、聞いてる?」
誰に問うでもない声に、ハッとカイトも我に返る。
アイリが慌てて首を振った。
「ごっ、ごめんなさい! 余りに綺麗な方だったので…!」
「そう? ありがと」
僅かに口元を緩めた相手に、アイリはさらに頬を赤くする。
男だということは分かったが、それにしたって綺麗な人間だった。
「えっ、えと、軸川部長なんですけど! あの、まだこっちには来ていなくて」
「あれ、そうなの? 解道学園長が、ここに居るだろう的なことを言ってたんだけど」
待たせてもらっても良い? と、先のカイトと同じ言葉が交わされる。
そこで初めて、新たな来訪者がカイトの存在を見つけた。
「もしかして先客?」
問われ、一拍遅れて頷く。
相手が男だと分かっていても、見つめられて頬が熱くなった。
「待ってる間、そいつの挑戦受けようと思ってさ」
武田を指差せば、彼の視線もそちらへ動く。
「挑戦っていうと、パズルの?」
「ああ」
ここパズル部だし、と告げれば、どうやら食指が動いたようだった。
「へえ。どんなパズル?」
未だ固まったままの武田へ尋ね、彼が反応する前にその手からパズルの紙を抜き取る。
描かれたナンバープレースを見遣り、少年は苦笑した。
「なんというか…ユニークなパズルだな」
横から覗きこんだカイトも、相変わらず不細工なパズルだと内心で零す。
「ねえ、書くもの貸して」
「え? おう」
すぐに取り出せたボールペンを渡せば、彼はソファに腰を下ろした。
ペンを指先でくるりと回し、彼は最初の数字を書き入れる。
(えっ?)
やや間を置いて、2つ目、3つ目と数字が埋まっていく。
「えっ、えっ? カイト並に早くない?」
ノノハの声に、アイリや他の部員たちも少年の手元を覗き込んだ。
ものの2分程度で、すべての数字が埋まる。
「はい。答え合わせ」
問題用紙を目の前に差し出され、ようやく武田も我に返った。
眼鏡を掛け直し、自身の持ち合わせる答えと付き合わせ、沈黙。
「…正解だ」
わっと座が湧き上がる。
「凄い! カイトといい勝負だよね!」
「お、おう…」
ノノハに言われ返事をするも、カイトの目は回答が記述された用紙へ釘付けになっていた。
(あそこから、どうやって…)
カイトが驚いたのは、解くスピードではない。
初めに数字を入れた箇所が、どうやってもあり得ない位置だったことだ。
カイトに限らず、ギャモンたちが解いたって同じだ。
彼らも同じ疑問を覚えるだろう。
(けど、すげえ…)
こんな人間も居るのか、と素直な感嘆が湧いた。
「お前すっごいな! あんな解き方、オレには真似できねえ」
すると少年は困ったように笑う。
「いつも言われる。けどどうやってるかって聞かれても、説明出来ない」
寧ろ俺が訊きたい、と続けた彼に、面白いヤツだと笑った。
「オレは大門カイト。お前は?」
見掛けたことないけど、と継げば、そりゃそうだと愉快げな声が返される。
「俺がこの学園に通うのは、明日からだから」
微かに携帯電話のバイブ音が鳴り、誰のものかと思えば件の少年のものだった。
「Yeah, I know. Ah ..., OK, then also.」
何やら不満気に通話を切った彼が、カイトを振り返る。
「タイムリミットだ。名前は明日教えてあげるよ、大門君」
お邪魔しました、と彼はパズル部を後にしてしまう。
「明日?」
このマンモス校では、出会う確率の方が低いはずだ。
「なんで言い切ったんだろうね、あの人…」
ノノハの言葉はまさしく、カイトの疑問だった。
「・グレインです。よろしく」
言葉通り、彼は名を名乗った。
カイトとノノハのクラスへやって来た、転入生として。
Bell rang at the beginning.
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12.5.9
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