殺し屋『Leon』
(2.ミート・アット・パーティー)
昨日の夜、安請け合いをしたことを心底後悔すべきのようだ。
全身の映る姿見の前に立った数十分前を思い返し、アニは眉根を寄せ幾度目かの溜め息を呑み込む。
(貴族のパーティーって、ほんとに面倒くさいね…)
声を掛けてくる礼服の男たちを追い払うのも、疲れてきた。
アニがヒッチに引き摺られるようにしてやって来たのは、ストヘス区東にある貴族の邸。
中々に大きな建物で、中も予想に違わぬ豪奢ぶり。
邸近くで他の参加メンバーと顔を合わせ、連れ立って招待状を手に邸へ入った。
(動き辛い)
サテンの入ったモスグリーンのドレスは、肩口と腰から下のラインに白いフリルが重ねて流されている。
コルセットは無く、スカートの裾を広げるパニエも最低限。
ヒッチや他の連れに比べるとアニのドレスはとても控えめで、ドレスだけを比べれば目立たない。
ドレスだけ、ならば。
「君、憲兵なんだってね? 兵士にこんなにも素敵なお嬢さんが居たとは」
1曲踊りませんか? 等と言い寄ってくる若い男に、心中で他へ回れと毒づく。
歯の浮くような台詞はゾッとしない。
(ていうか、気持ち悪い)
手にしたグラスの中身を飲むフリをして、壁の花を決め込む。
人の影に顔を上げると、ヒッチがデザートを載せた皿を片手ににまにまと笑っていた。
「大人気だねえ、アニ」
ま、あんた黙ってればクールで知的に見えるもんね、と失礼極まりないことを言ってくる。
彼女の皿の上から手で掴めるタルトを掻っ攫い、何喰わぬ顔で食べてやった。
「あっ!」
「ねえ、帰りたいんだけど」
私のケーキ! と喚いたヒッチは、次には盛大に眉を顰めた。
「帰る? まだ1時間も居ない内から冗談でしょ」
ここでイイ男引っ掛けられたら将来安泰なんだし、頑張れば?
嫌がらせだと分かる言い回しをしてきた彼女は、成程、本当に良い性格をしている。
「余計なお世話だよ」
貴族の仲間入り?
(冗談じゃない)
気配を殺して料理の並ぶ卓の後ろへ、そして談笑に興じる人の後ろへ移動する。
若干奥まった壁際、内側に張り出している柱の影で、アニはようやく凝った肩を解した。
緩やかに動き回る、幾つものきらびやかな服。
見た目だけなら涎が垂れてもおかしくない料理。
(ああ、)
正面から貴族のパーティーに参加したことは初めてだが、地下街に住んでいた頃と感じるものは変わらない。
(反吐が出るよ)
ふと、壁の向こう側がわっと沸いた。
僅かだけ顔を出しそちらを窺ったアニは、目にした人物に危うく声を上げかけ口を塞ぐ。
(エレン?!)
貴族の夜会はこれで2度目。
前回出たのだから今回はミケだろうと思っていたのに、エレンは呆れの表情を隠さない。
カッポカッポ、と馬車を曳く馬の蹄が鳴っている。
「ここはミケさんじゃないんですか?」
何でまた俺なんですか。
髪型をオールバックにされて、落ち着かない。
わざと残された幾筋かの前髪を摘まんで、向かいに座るエルヴィンへ問う。
かの団長は笑みを崩さず、相変わらず気に食わない男だ。
「前回のパーティーで、君のウケがとても良かったからね」
「あいつは知り合いですから、当たり前でしょう」
前回主催の貴族を"あいつ"呼ばわりしつつ怪訝なエレンを、隣に座るリヴァイはクラバットを流してひと言。
「無自覚はタチが悪ぃな」
あれだけ視線を集めておきながら。
(…いや、)
あるいは地下街で暮らす内に、生き延びる術として無意識下に覚え込んだのかもしれない。
「…馬鹿にしてます?」
「してねえ」
どうだか、とエレンの視線が窓の外へ向いた。
リヴァイの咎めるような視線に気づいているだろうに、無視とは腹が据わっている。
ハンジが声を抑えて噴き出した。
「リヴァイが振り回されてるとか、その辺のギャグより笑える!」
エレンが来てから、面白いことだらけだよ!
「クソメガネ…馬車から蹴り落としてやろうか」
いつものように言い合うハンジとリヴァイを横目に、エルヴィンはどこか穏やかな心持ちだった。
(エレンが分隊長となってから、随分と賑やかになったな)
調査兵団全体としても、新兵が生き残り続けている今、ぼやぼやしてはいられないと士気が落ちる様子もない。
(喜ばしいことだ)
「おい、エルヴィン。俺とエレンは1時間経ったら出るぞ」
元よりこのような場を嫌悪するリヴァイへ、エルヴィンは鷹揚に頷いて見せる。
「ああ、構わないよ。宿は先方が手配してくれているから、予約票だけ渡しておこう」
それを聞き流しながら、本部には戻らないのかとエレンはうんざりした。
(地下街に逃げてやろうか)
今日の月は細い下弦、逃げるには持って来いだ。
ざわついた参加者たちの視線の先、明らかに他者と毛色の違う参加者が現れた。
女たちの色めき立つ声が聴こえて来る。
「まあ、調査兵団団長のエルヴィン様よ!」
「素敵ねえ…。では、あちらがリヴァイ兵士長ね」
「意外と小柄な方でしたのね。でも見て、あの着こなし…!」
「きっと鋼のような身体をしていらっしゃるのね!」
筋肉の話などアニには心底どうでも良いのだが、うっかりはしゃぐ気持ちは分からないでもない。
「あちらの眼鏡の方…、ああ、分隊長のハンジ様でしたかしら」
「男装の麗人よ。わたくしと1曲踊って頂きたいわぁ」
(…あれ女なの)
アニは半信半疑でそのハンジという女性の隣へ視線をやって…
「!」
金色と目が合った、ばっちりと。
こちらを認めて分かりやすく目を丸くした相手は、徐に左手を右手の手首に添えるとその指先でトントンと自らの腕を叩く。
("まごにもいしょうだな"…はあ?)
判りやすく挑発され、アニは腕を組むと同じように右の指先で組んだ腕を叩いた。
これは地下街で、エレンと彼が身内と認めた者が交わす符号だ。
("そっくりかえす、よけいなおせわ"…ククッ)
エレンは何とか笑いを堪え、彼女から視線を戻す。
横からハンジが顔を覗いてきた。
「あれ? エレン、楽しそうだね?」
「思いがけず知り合いを見つけたので」
「えっ、どこどこ?」
俄然、興味を惹かれたらしいハンジが周りを見回す。
しかし、すでにアニの姿は先の場所から消えていた。
「では、あの若い殿方も調査兵ですの?」
「分隊長ですって! あの若さで、将来有望ということねえ」
苛つきついでに小腹が空いて、アニがクッキーを摘んだときだった。
信じられない言葉を聞いたのは。
(分隊長…?)
あのエレンが?
驚きのまま、主催者へ挨拶へ行くのだろう調査兵団の一行を見送る。
「あっ、アニ! やっと見つけた!」
しまった、気を抜いたらヒッチに見つかってしまった。
「勝手に消えないでよね〜。こういうのは、女子で固まってた方が男も寄って来るんだから」
どうでも良い知識を寄越した後、彼女は声を潜めて何処かをちらりと横目にした。
「ねえ、アニ。あそこの調査兵、結構イケると思わない?」
あたしらとあんま歳違わないっぽいし!
「…イケる、ねえ」
止めとけば? とは言わない。
「あれ、私の同期」
「…は? マジ?」
「マジ」
途端、ヒッチの目が輝く。
「ならあたしらに紹介してよ!」
アニはあからさまな溜め息を吐いてやった。
「あんたね…死亡率最悪の調査兵狙ってどうすんの?」
「そりゃあそうだけど、でも分隊長でしょ?」
てことは、生き残る確率高いよね。
それもそうかと納得しかけて、アニは目下の問題を思い出す。
(そうじゃない)
「…まあ、私もあいつに聞きたいことあるから、そのときに出来たらしてあげる」
「やった!」
タダじゃないよと付け足してやれば思い切り嫌な顔をされ、アニは少しだけ溜飲を下げた。
挨拶をした本パーティーの主催者は、良くもなければ悪くもない。
当たり障りない付き合いで済ませたいところだ。
運の悪いことに、娘と息子が複数名居る。
エレンは対外用の笑みの下で、早く帰りたいと愚痴を零した。
息子の方がエレンと歳が近く、妹…あるいは姉…がこちらに視線を向けているのが気に食わないらしい。
(知るかよ)
ああ、めんどくさい。
後をエルヴィンとリヴァイに任せ、早々にハンジと共にその場を離れた。
「エレン、モテモテだねえ。視線が追い掛けて来てる」
からかい混じりのハンジの言葉は、ただの確認要素に過ぎない。
「男の嫉妬は面倒なんですよね」
「へ? …ああ、なるほど」
視線の元をこっそりと辿ったハンジは、頷いてからエレンの観察眼に感服した。
(それも、"暗殺者"として必要なスキルだったのかな)
兵士となる前のエレンが何をしていたのか、一端ではあるがハンジは知っている。
それをエレンに話してはいない。
「ん?」
人の近づいてくる音に振り返れば、給仕の男が寄ってきた。
手にした盆には、グラスが2つ載っている。
「先程お着きになったばかりとお聞きしています。どうぞ」
先に盆を向けられたハンジが、手前にあったグラスを取る。
残ったグラスへ手を伸ばし、エレンは給仕へ尋ねた。
「聞いていたということは、これはどなたかから?」
給仕の男は是を返すと、当主の長男からだと答えた。
礼を言い、エレンはグラスの中身をそれとなく眺める。
「ハンジさん、ストップ」
「え?」
飲むためにグラスを傾けていたハンジは、突然の言葉にグラス口から唇を離した。
エレンは自分の持つグラスを僅かだけ差し上げて見せる。
「これ、明らかに何か混ざってると思いません?」
問われ自然に主賓側へ背を向けると、ハンジはエレンのグラスをじっと見る。
確かに、気泡によく似た何かが沈んでいた。
「そっちは何もなさそうですけど、飲むフリしたら給仕に返した方が良いです」
「あー…そうするよ。エレンは?」
「カモフラージュが揃ったらやります」
「カモフラージュ?」
とりあえず2人で壁際へ寄る。
「さっき言ってた知り合いを捜してるのかい?」
「そんなとこです」
まあ、捜さなくても寄って来ますから。
エレンは形だけグラスへ口を付け、傾けた。
伏せられた金色の目はあまりに大人びて、彼がまだ子供と括れる年齢に嵌まることを忘れてしまう。
ふっと笑みを浮かべ、ハンジは隣で壁に背を預けた。
「良い男っぷりだねえ」
揶揄ではなく、本当にそう思う。
エレンがちらりとハンジを見上げた。
「君がここまでどう生きてきたかは聞かないけど、今のエレンは文句なしに良い男だよ」
「…ありがとうございます?」
「え、そこ疑問形にしちゃう?」
給仕からグラスを受け取ったエレンが、グラスを持たぬ方の手でトントンと逆の肘を叩く。
("やっかいごと、てをかして"…はいはい)
遠目にそれを認めたアニはこっそりと溜め息を吐き、隣で彼女以外の連れと話すヒッチの肩を小突いた。
溜め息を吐くのは何度目だろうか。
「何?」
振り返った彼女に、ホール反対側の壁を指差す。
「あいつ、空いたみたいだけど」
ヒッチがそちらを見ると調査兵団分隊長が2人、グラスを片手に壁の花となっていた。
「やった! ごめん、あたしちょっと向こう行くね!」
「あっ、ヒッチってば抜け駆けー?」
「後であんたたちにも教えるからさ!」
彼女がアニの他に誘っていた少女たちは、類は友を呼ぶということだろう。
アニからすると、姦しく面倒な連中としか思えない。
(まあ、こういう連中が良い情報寄越してくれるんだけど)
今は必要ない。
アニとヒッチは寄ってくる男をあしらいながら、ホールを横切る。
「エレン」
呼び声に、ハンジはおやと目を瞬く。
モスグリーンのドレスを着た、気の強そうな金髪の美少女だ。
彼女の後ろにはやや色素の薄い金髪の少女が居て、連れであろうことが一目で分かる。
(この年頃だと、1人で来るのは難しいからね)
エレンは少し気を緩めた笑みを浮かべ、ハンジを振り返った。
「ハンジさん、俺の同期のアニ・レオンハートです。俺たちの中では、唯一憲兵を選んだヤツで」
アニ、こっちは調査兵団第2分隊のハンジ・ゾエ分隊長だ。
紹介されたアニと彼女の後ろの少女は、揃って綺麗な敬礼を寄越した。
それにこちらも敬礼を返して、ハンジは朗らかに笑う。
「そっか〜エレンの同期か。となると、君も強そうだねえ」
そんなことはない、と謙遜するアニに、嫌味かとエレンが返す。
「俺より成績良かったヤツが言う台詞かよ」
ところでそっちは? と問われて、アニはヒッチを紹介した。
「別の訓練兵団卒の同期で、今のルームメイト」
「ヒッチ・ドリスです。調査兵団幹部の方とお会い出来るとは、光栄です」
どうやら世辞ではなく、本心のようだ。
もっとも、アニも彼女も憲兵団最下層の二等兵なので、憲兵団の幹部にすら滅多に会う機会はない。
「でも、あたしたちと同期で分隊長って、凄いですね!」
「あー…敬語は使わなくていいよ。呼び捨てで良いし。アニの同期に敬語使われるとゾワゾワする」
「へえ、どういう意味?」
ギロリと睨んだアニに、エレンは肩を竦める。
「ところでアニ、ここで何か食った?」
「私はクッキーだけ」
答えたアニは、エレンの指先がまた反対の腕を叩くのを見た。
("ぐらすのなかみ"…)
エレンのグラスをちらりと見遣るが、減っている様子はない。
(てことは、)
捨てたい方か。
アニはヒッチへ話を振る。
「ヒッチ、あんた結構食べてなかったっけ?」
「…ぐ、バラさなくたって良いでしょ」
少食はともかく、その逆は女にとってアピールポイントにはならない。
エレンが気にした様子もないが。
「俺たちさっき着いたばっかだから何か食いたいんだけど、何が美味かったのかと思って」
ヒッチがアニを見ると、話を振ってやったんだから何とかやれ、という視線が飛んできた。
(なんか脅されてる感ハンパないんですけど?!)
それでもまあ良いか、と切り替えられる辺り、ヒッチも伊達に憲兵を謳歌しているわけではない。
「んー、ローストビーフとか美味しかったかな」
「げっ、何だよその貴重品としか思えねえ名前!」
「まあねえ、お貴族様のやることだし?」
小声でそんな会話を為して、ヒッチはエレンを料理のテーブルへ連れて行く。
アニもその後を付いて、せっかくなので貴重な食べ物を頂くことにする。
「ハンジさんの分も何か取ってきます?」
「本当かい? じゃあ頼もうかな」
ひらひらと手を振り、ハンジはエレンたちを見送った。
(ああやって見ると、ただの新兵なんだけどねえ)
見知った気配に奥を見れば、リヴァイがやって来る。
「おい、エレンはどうした?」
これだよ、とハンジは呆れを言葉に変えた。
「リヴァイもさあ、それもうちょっと何とかしたら?」
「あ?」
「ホルツヴァート邸でもそうだけど、二言目には『エレン』って言うの」
もしかして気づいてない? と揶揄い混じりに尋ねてみれば、舌打ちが返る。
「当然だ。アイツはまだ、地下街へ戻るつもりで居る」
ハンジもこれには驚いた。
「分隊長になったのに? …ん?」
もしかして、分隊長の肩書きって。
「あいつと地下の接点は切れてねぇんだ。いつ首輪引き千切って逃げるか判らねえ」
うわあ、とハンジは声に出さず溜め息と感嘆を吐き出した。
ローストビーフの載る大皿は、幾人もが手を出しているようでスライスされた肉は随分と減っている。
(これなら大丈夫そうだな)
「あ、あたし取ろうか?」
「悪い、頼む」
取り分け用に置いてある柄の長いフォークナイフで、ヒッチが小皿に肉を取り合わけた。
エレンは周囲の目を盗み、グラスの中身を半分皿と盆の間へ流し込む。
もちろん、飲むフリも忘れない。
「エレン」
呼ばれ、エレンは隣でローストビーフとサラダを小皿に載せるアニを見た。
「あんた、何で分隊長なんかやってるの?」
即答はせず、エレンはローストビーフへフォークを突き刺しぱくりとひと口。
「…うっま」
本当の贅沢品、サシャでなくても大喜びだろう。
エレンが元居た場所を見返れば、ハンジの隣にはリヴァイが居る。
「俺の第3分隊、メンバーは104期なんだよ。全員」
「…は?」
「4回の壁外調査で、104期は誰一人として死ななかった。そのイレギュラーを集めて"第3分隊"」
調査兵団へ入ったアニの同期は、例外なくエレンの分隊に所属ということか。
「エルヴィン団長とリヴァイ兵長は、どうあっても俺を逃したくないらしい」
エレンとアニはほとんど読唇に近い声量で話しており、ヒッチが気づく様子はない。
(…首輪と人質、ってワケ)
理不尽さに腹を立てたアニは、うっかり殺気を乗せたままリヴァイを見てしまった。
向こうがこちらを注視する前に視線を戻す。
「エレン、お菓子食べる?」
ヒッチの問いに、エレンは目を見開いた。
「菓子?!」
「うん。ワインゼリーとか結構イケたよ。取って来ようか?」
「サンキュー!」
「…やけに気が利くね、ヒッチ」
「はいはい、嫌味は間に合ってるよ」
ルームメイトらしい彼女らの軽快な遣り取りをBGMに、エレンは目論見どおり飲むことなくグラスを空にした。
(やれやれ)
次回から、この邸はご遠慮願おう。
もう1枚ローストビーフをもぐもぐと嚥下して、レタスをつつくアニへ問い掛ける。
「そういや、何でお前はこんなとこに居るんだ?」
どう逆立ちしても来なさそうなのに。
「…私にもいろいろ予定があるのさ」
「アニは鈴蘭伯爵のパーティーに行きたいんだよねえ」
「!」
菓子を盛って戻ったヒッチが口を挟んだ。
ニヤニヤと笑う様子に、彼女がアニを揶揄っているのだと分かる。
「何でまた?」
「…別に」
彼女はそれ以上、答える気はないようだった。
エレンはアニの横顔を見つめて、ごくんとローストビーフを呑み込む。
不意にリヴァイへ向けて飛んできた殺気は、一瞬で掻き消えた。
「ハンジ。あのガキは誰だ?」
「どれ? ああ、金髪のちっちゃい子?」
あの子はアニって言って、エレンの同期なんだって。
「中々の美人だよねえ。訓練兵のとき、エレンより成績良かったんだってさ」
「ほう」
リヴァイはそれきり黙り込む。
ハンジは彼の様子に首を傾げたが、エレンが戻ってきたことで笑みを浮かべた。
「おっ、エレン。ありがと〜」
「兵長も食べます?」
ローストビーフとサラダの盛られた皿、ゼリーやタルトといったデザートが盛られた皿。
少なくとも2人分は入っている。
「…俺はいい」
リヴァイが断ると、エレンは殊更残念そうな顔をした。
「えー…。美味しいのに」
それにこれ、他の人も食べてるんで毒は入ってないですよ?
ハンジは思わずエレンを見つめ返した。
「エレン…?」
問われたエレンは事も無げに返す。
「他の人が口を付けていないものは、避けるのが無難ですけど」
リヴァイはひとつ舌打ちを零し、ワインゼリーの入った器を手にする。
『皆さん、よく今までご無事でしたね』
彼にもハンジにも、そんな声が聴こえた気がした。
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2014.12.7
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