Got ist tot.

(3.5/少年の午睡と少女の幸せと、少年少女が見守る小さな世界)




八角形の部屋の中、目を覚ました3人のために新たに持ち込まれた角丸のテーブル。
そこにスクールの宿題を広げ、ヒストリアは指先でくるりとペンを回した。
斜め向かいにはアルミンが座っており、半期前までヒストリアが使っていた教科書を興味深げに読んでいる。
部屋の入口の壁際ではミカサが筋力トレーニング中で、倒立腕立て伏せなどという素晴らしいことをしている。
…あれはどう頑張ったって、真似できそうにない。
ヒストリアは手元のノート、書きかけの解答を追記する前に、視線を部屋の中央へ流す。
(気持ち良さそう…)
ベッドの上、清潔なシーツに包まってエレンが眠っている。
目覚める前とは違って、眠る体勢は綺麗な仰向けではなくなっていた。
(猫みたい…)
彼はちょうどヒストリアとアルミンの居る方向を向いて、膝を折り曲げ丸まっている。
その頭を撫でてみたいと思うのは、正常な欲求だと思って良いだろうか。
クスリ、と笑みが聞こえ、ヒストリアは体勢を元に戻した。
アルミンが可笑しそうに笑みを堪えている。
「いいよ、ヒストリア」
何のことだか咄嗟に判断出来なかった彼女に、反対側からも声がした。
「貴女なら、構わないけれど」
倒立から音もなく起立となったミカサが、ヒストリアを見る。
(えっ、と…?)
戸惑ったままミカサを見つめ返せば、彼女の視線がするりと手前へ引かれた。
視線を追えばすやすやと眠るエレンへ行き着き、思い当たる。
(あ…)
触れても良いと、言われたのだ。
ヒストリアは音を立てぬように立ち上がると、ベッドが軋まないように細心の注意を払って腰掛けた。
そぅっと左手を伸ばして、眠るエレンの髪に触れる。
(う…わぁ、)
さらさらと流れる髪の感触が心地良くて、思わず目元が緩んだ。
流れる髪を撫でつけそろそろと頭を撫でてみれば、ん…と小さな吐息が漏れた。
起こしたかという危惧は杞憂であったようで、規則的な寝息は乱れていない。
(どうしよう…)
可愛い、と思ってしまうのは、正常な思考なのだろうか?
ゆるゆるとエレンの頭を撫でながら、ヒストリアは取り留めもなく考える。
撫でる動作がすでに無意識であることには気付かない。
ミカサとアルミンが、ヒストリアとエレンを微笑ましく眺めていることにも気付かない。
ただ、幸せだなぁと思う。
(ずっと、こうしていられたら良いのに)

とある陽気の、長閑な午後のこと。
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2013.6.22

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