アリ・ディッラ・リベルタ

(さあ、一で千の恐怖を)




劇場の如く半円を描く議員席。
舞台たる壇上。
天窓から入る明かりに色は無けれど、映るは鮮やかな赤紫。
議事堂をぐるりと囲う、半円窓。
窓と壁で区切られたいくつもの空もまた、黄昏時を告げていた。

誰もが数十分前には退室し、カルロと彼の父、スカルラッティ議員の他に議事堂には誰も居ない。
だからこそ、今の政府の現状を忌憚なく論じていた。
なのに"ソレ"は、すべて閉じていたはずの窓に腰掛けていて。
音もなく開いていた窓からは、涼やかな風がそよいでた。

「ーー…なあ」

"ソレ"が、声を発した。
入り口の扉は開かれてなどいない、窓と同じく。
何より、大の大人が2人揃って気付かないなどあり得ない。
驚愕する彼らのことなどどうでも良いのか、"ソレ"は愉快そうに目を細める。

「『力』に対するには、『力』を用いるしか無い」

そうだろ?
無邪気さを秘めた"ソレ"は、大人ではない。
まだ少年だ。
歳の頃は、15,6といったところか。
外から吹き込んだ風が、襟足に届かぬ髪を揺らす。
逆光に暗色を増している髪は、艶やかな烏色に見えた。

「だからさ、」

カシャン、カシャンと金属音が連なる。
黄昏に照らし出され伸びゆく影は、ゆるりとその『翼』を広げ。
(あり得ない…)
"ソレ"の眼はレッドベリルの如く色光を宿し、あまりにも鮮やかな彩を放っていた。
浮かぶ笑みはにぃと深められ、ちろりと赤い舌が覗く。

「一人を殺すことで、千人を恐怖させれば良い」


*     *     *


広がる翼、そしてレッドベリル。
カルロは今でも、あの時の光景をはっきりと思い描くことが出来る。
議事堂の扉前でネクタイの歪みを正し、彼は手中の懐中時計を懐へ収めた。

「カルロ・スカルラッティ。本日このときより、君を『Red Raven』本部長と任命する」

あれは、そう。
『Red Raven』創設の、66日前のこと。
あの日、あの時、あの少年が。

天啓を与えた、<始まりのRed Raven>
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2013.11.17

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