ら り
ひ  り

        が、  う 






黒く分厚い、1冊の本。

夜の闇をさらに塗り潰したような、漆黒の本。

その本には、何らかの植物が絡み合うレリーフ。

赤銅のレリーフは、額縁のように本を象っていた。

表紙と思われる面には、驚くべきものが在る。

中心に据えられている、紋様。

"蝶"と呼ばれる"いきもの"を象ったような、滑らかな曲線。

その色は、暗闇と同じ。

漆黒の表紙に浮かぶ、漆黒の紋様。

本来ならば、くっきりと浮かぶなどあり得ない。

それをこの本の表紙は、見事に現実としている。

どれだけ考えても、原理が分からない。

本に与えられた名は、『 Kiaret /キアレット』

発見された時代の言語で、『蝶』という。

頁を捲れば、書かれた文字は古代文字。

綴られているのは、ある歴史の一部始終。

数えることさえ出来ない、遥か過去のすべて。

何万頁にも及ぶ、歴史の始まりから終わりまで。

『 Kiaret 』に目次は存在せず、内表紙の序文が最初の頁。

その序文を訳した者は、思わず眉を顰めたという。

『 この世界にかつて、"天使"と"悪魔"がいた 』

『 それによって世界が滅びるところだった 』

『 けれど世界が滅びる前に、その二種を滅ぼした存在があった 』

序文を要約すると、このような内容であった。

なんとまあ、突拍子もない話だろう!

そう思いはするが、否定出来る要素も無い。

比較的新しい時代の古文書に、こんな記述がある。

『 万年雪に囲まれる、大陸の最北 』

『 巨大な氷山の内には、時を止めた都がある 』

『 国を為す一大都市だったのでは、と思われる規模だ 』

『 我々は、硬く分厚い氷を溶かす術を持たない 』

『 何より氷に保存された都市は、氷が溶ければ崩れるだろう 』

『 それは半ば、確信であった 』

嘘だろう、と信じ難い実物写真も遺っていた。

"凍りの都"と呼ばれた遺跡、その姿。

『 氷の外からの観察は困難であったが、仕方がない 』

『 天体望遠鏡の類いで調査され、住人の姿も発見された 』

『 なんとも、信じられない 』

『 我々の信仰する神の御書が、そのまま在ったのだ 』

おお、神よ。

天使と悪魔が、かつて生きていたと仰るのか!







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